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【冒険者ギルドのお仕事】 ~冒険者からの売れ残りを片付けているのは〝役立たず〟〝ゴミ箱〟と嘲笑われる最強の従業員だった~  作者: 水城ゆき
第一章

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上がる評価と下がる評価

冒険者ギルド『ルウラ支店』では、既に劇薬たる〝王国案件〟が開始されており、連日のように朝から欲望に飢えた多くの冒険者達が掲示板の前に群れを成していた。

 今日も朝一番、フィルネが真新しい新規依頼を貼りつける。その束のうち、最上段に鎮座する数枚には、燦然と輝く特権の証〝王国案件〟の文字が躍っている。


 群がる冒険者達は、獲物を見つけた獣のように先ずはそれに目を通すのだ。

 依頼書には王国案件の簡単な内容が記載されているが、大体その書面の最後のほうには冷酷な一文が添えられている。

 『要、冒険者ランクA以上──』

 その条件を見た瞬間、群がっていた半分以上の冒険者が、深いタメ息と共に蜘蛛の子を散らすように諦めて退散していく。この残酷なふるい落としの儀式は、制度が開始されて数日経った今も変わらぬ朝の風景となっていた。


 依頼内容自体は、さほど命を削るような大層なものではない。だが、王国案件は何よりも『国家の信用』が第一とされるため、国側も冒険者に依頼するに辺り、様子見を兼ねているのか「最低でもAランク」という絶対的な品質保証を求めてくるのだ。

 ルウラ支店においてAランク以上の実力者となると、全体の二割にも満たない。八割の者は、どれほど実入りの良い仕事であっても、指を咥えて見ていることしか許されない。

 だが、王国案件はまだまだ始まったばかりだ。


 ギルドと王国との連携が深まれば、これからもっとBランク、さらにはCランク層にも降りてくるような、中規模の王国案件も出てくるだろう。冒険者たちの熱気は、その「おこぼれ」を期待して冷めることを知らなかった。

 

「ほら、どいたどいた!雑魚ランクは邪魔だ、下がってろ!」


 そんな下位ランクの冒険者達の期待と落胆を、あからさまに煽るような横柄な怒声。

 肩で風を切って現れたのは、『ヴァルハラ』のリーダーたるレオンだった。

 彼は一応、アリアと同等とされるAAランク冒険者という特権階級に属している。昔から人を見下す悪癖はあったが、最近の彼の態度は、目に余るほどに荒みきっている。


 最近というのは、レオンとアリアが遺跡の一件で揉めた辺りからだ。

 あの一件は騎士団の介入により一応の解決を見て、ヴァルハラがアリアを〝意図的に売った〟という疑いはもちろん晴れたわけだ。

 が、しかし。真実がどうあれ〝大勢の盗賊にビビッて、ヴァルハラが聖女を置き去りにして逃げ出した〟という不名誉な事実は、面白おかしい噂となってルウラ中に大きく広まり、レオン達の冒険者としての評価を致命的なまでに下げていた。


 もちろん今となっては、当事者であるアリアも、事情を知るグレンも、ヴァルハラが絶対的な悪だったとは思っていない。

 多勢に無勢で寝込みを急襲され、まして相手が名の知れた盗賊団の幹部ベーチャとなれば、全滅を避けるために一時撤退を選ぶのは、冒険者の生存戦略として決して間違ってはいないのだから。

 しかし、大衆はそんな冷静な戦略論など求めない。

 そして人は、高みにいる者のメッキが剥がれ、泥に塗れる姿を見るのが何より好きなのだ。


 ルウラ中に蔓延する冷笑的な視線。その事に対するストレスが限界に達しているのか、最近のレオンは誰かれ構わず、噛みつくように当たり散らしていた。

 また逆に、アリアが消えたと知るや否や、単身で(という建前だが)直ぐに遺跡へ探しに向かったとされるグレンの評価は、「無能なりに根性はある」と、ギルド内で微妙に高騰している。

 誇り高きレオンにとって、『ゴミ箱』以下の存在だった男が称賛される今の空気が、何よりも気に入らないのだろう。


「ほら、さっさとどけと言ってるのが聞こえねぇのか!」

「なんだよお前、偉そうにしやがって! 逃げ足だけのAAランクのくせに!」

「なんだと、文句あるかテメェ。俺に喧嘩売ってただで済むと思うなよ!」


 突如、レオンと彼を嘲笑した他の冒険者が胸ぐらを掴み合って争い始め、慌てて従業員の数名が制止に飛び込んでいく。

 これが、今のルウラ支店の淀んだ日常である。

 剥き出しの劣等感と、歪んだ優越感。こんな火薬庫のような状態がいつまでも続くはずがない。今に必ず、誰の目にも明らかな「大きな事件」に発展するだろう……なんて事は、この場にいる誰もが、皮膚の表面を撫でるような悪寒と共に予想していた────

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