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上がる評価と下がる評価


 詰まるところが、ナルシーはベーチャの発言を若干なりとも信じているのだろう。

 そして、その裏付けとして〝派手シャツ〟の力量を知りたいのだとグレンは考察した。


 ナルシーは王国騎士団長でありながら、西方大陸一の剣士。そんな男に力量が認められれば、ベーチャの発言に信憑性が出てしまう。


 国王陛下は盗賊の言う事を鵜呑みにはしなかったようだが、ナルシーが掘り返せばまた話は変わり。

 グレンが遺跡に居た事になるだろう。


 そしてギルドにいた筈のグレンが、二日程も離れた距離にある遺跡に居たとなると。

 今度は転移魔法を疑われる可能性も出てくるのだから、まったく困った話だ。


「ははは……ぼ、僕なんかが騎士団長様となんて。話になりませんよね」

「いいから構えたまえ。なあに、ただの〝お遊び〟だよ」

「そ、そうですか。では、お手柔らかに……です」


 適当な所で負けようと決め、グレンは仕方なく剣を構えた。しかし次の瞬間。

 ナルシーの木剣は凄まじい速さでグレンに迫ったのだ。


 ──速すぎる!


 適当に負ける余裕など微塵もない。しかも剣先は寸分違わずグレンの喉元目掛けて〝殺しにきてる〟のだ。

 反射的に振ったグレンの木剣は、ナルシーの木剣を稽古場の天井高くへと弾いた──弾いてしまったのだ。

 

 そうするしか方法がなかった。

 一瞬でも躊躇ったら、木剣といえどグレンは致命傷を負っていただろう。


 ──これは、お遊びなんかじゃない!

 グレンはナルシーを睨んだ。しかし当のナルシーはおどけた顔で肩を竦める。

 周りの騎士達は口を開けたまま硬直しており、アリアも目を丸くしていた。


 ハハハと、おでこに手を当てて突然笑いだすナルシーに全員が注目した。

 すると彼は落ちた木剣を拾いながら言うのだ。


「いやはや、お前達もこの事は口外しないように。〝うっかり〟持ってた剣がすっぽ抜けてしまった。恥ずかしいから絶対に内緒にしてくれよ」


 ナルシーの茶目っ気のある言動に騎士達がドッと笑う。

 アリアは笑っていい事なのか迷ったのだろう、限りなく控えめに苦笑いしている。

 

 ただ、一人。グレンだけは笑えなかった。

 すっぽ抜けるわけがないのだ。何故ならナルシーの攻撃は精錬された完璧な〝突き技〟だった。

 つまりグレンとナルシー以外誰も、あの攻防が見えなかったのだ。


「どうも今日は調子が悪いようだ。アリアくんとも打ち合ってみたかったが、考えてみればキミは魔法主体だし僕と剣で試合ってのもおかしいよね」


 ナルシーは、ハハハっと軽く笑っているが彼が意図的にグレンを試したのは間違いない。

 これにより自分の評価は飛躍的に上がった──いや、上げられたのだとグレンは確信していた。


 その後、ナルシーの部屋へ戻り。他愛もない話が繰り広げられたのち「王国案件の件、よろしく頼むよ」という言葉で、短くも長く感じられた時間は終わりを迎えるのだった。



「最初は少し怖かったけど、意外と面白い人だったよね。団長さん」

「そ、そうですね……ははっ」


 城からの帰り道。グレンの耳にアリアの言葉は半分も入ってこなかった。

 ナルシーが今後どういった行動に出るのか。どのように外堀を埋めてくるのかで頭が一杯なのだ。


 しかし、それから一週間が過ぎても王国からは不気味な程に何の連絡もなかった────



 ギルドでは既に王国案件が始まっており、連日のように朝から多くの冒険者が掲示板に群れている。


 今日も朝一番の新規依頼をフィルネが貼りつけ、うち数枚には〝王国案件〟と一番上に書かれている。

 冒険者達は先ずはそれに目を通すのだ。


 依頼書には王国案件の簡単な内容が記載されており、大体その最後のほうには『要、冒険者ランク◯◯以上──』と書かれており、半分以上の冒険者がタメ息と共に諦める。

 この流れは数日経った今も変わらない。


 依頼内容はさほど大変ではないが、王国案件は信用が第一なので多くが〝Aランク〟である。

 ルウラ支店でAランク以上となると、八割はふるい落とされる。


 だが、王国案件はまだまだ始まったばかりだ。

 これからもっとBランク程度の王国案件も出てくるだろう。

 

「ほら、どいたどいた! 雑魚ランクは下がってろ」


 ガッカリする冒険者達を煽るように現れたのはヴァルハラのレオンだった。

 彼は一応アリアと同等のAAランク冒険者で、人を見下すのは昔からだが最近は特に酷い。


 最近というのは、レオンとアリアが揉めた辺りからだが、あの一件は一応解決を見てヴァルハラの疑いはもちろん晴れたわけだ。

 が、しかし〝ヴァルハラがアリアを犠牲にして盗賊から逃げ出した〟という噂は、大きく広まりレオン達の評価をかなり下げていた。


 今となってはアリアもグレンも、ヴァルハラが悪いとは思っていない。

 多勢に無勢で寝込みを襲われ、まして相手がベーチャなら逃げるしかない事くらいわかる。


 しかし、そう考える者は少ない。

 そして人は、人の粗を探すのが好きなのだ。


 その事でストレスが溜まっているのか、最近のレオンは誰かれ構わず当たり散らしていた。

 また逆に、直ぐに遺跡へアリアを探しに行ったグレンの評価は微妙に高まっている。

 それもレオンは気に入らないようだ。


「ほら、どけ!」

「なんだよお前、AAランクだからって偉そうに」

「なに? 文句あるかテメェ。俺に喧嘩売って勝てると思うなよ!」


 突如、レオンと他の冒険者が争い始め、慌てて従業員の数名が止めに入る。

 これが今のルウラ支店の日常である。

 こんな状態では今に大きな事件に発展するだろう……なんて事は、誰もが予想していた────


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