雷光の審問
グレンの存在が王国にバレた、とは言えど。彼が冒険者ギルドという組織における特殊な存在────つまりは〝ソティラス〟がバレたという話ではない。
支店長マルクス曰く「そこは上手く誤魔化した」という事だったが、その言葉ほど信用に値しない報告はない。
結局のところ、グレン・ターナーという異分子が放った「神速の救出劇」という噂話は、王城という巨大な水面に、隠しきれない波紋を広げていたのだ。
その落とし前をつけるべく、グレンは慣れない足取りでシュタンストール城の門をくぐることとなった。
つまりは〝呼び出し〟がかかったのだ。
案内された一室。重厚な扉の先に待っていたのは、安堵の表情を浮かべるアリアと、そして──視覚を暴力的に刺激するほどの「輝き」を放つ男だった。
その名は「ナルシー・ロミリアンス」
三十歳にして王国騎士団長の座に君臨し、その神速の如き剣閃から『西の雷』と称えられている。
地味を美徳とするグレンとは対極に位置する、金髪長身の超絶美形。その男が、獲物を定めるような涼やかな微笑みをグレンに向けた。
「わざわざ来てもらって申し訳ない、グレン・ターナーくん」
その声さえもが、磨き抜かれた名剣のように澄んでいる。
マルクスからの事前情報では「王国案件とは別件」という曖昧なものだったが、この男が直々に動いている時点で、それが〝平穏な事務連絡〟でないことだけはグレンにさえ容易に理解できた。
「さて、揃ったところで本題に入ろう。先日捕縛したベーチャのことだ。公式の調査報告では、君達の功績となっているが……当のベーチャ本人が、妙なことを口走っていてね。『俺たちを縛ったのは、あの派手なシャツの男一人だ』と」
ナルシーは困ったように額に手を当てる。その仕草一つとっても、舞台役者のような過剰な優雅さが鼻につく。
マルクスによる苦肉の言い訳──「責任感に燃えた従業員が、冒険者を救いに行ったついでにアリアと共にベーチャを捉えた」という見え見えの偽証シナリオ。
それが、現場のベーチャによって、あっさりと崩壊の危機に瀕していた。
「……だが、僕は少しばかり、腑に落ちなくてね。二人とも僕について来てくれたまえ」
アリアとグレンの視線が複雑に交差する。
やがて案内されたのは、騎士たちの怒号と鉄の匂いが渦巻く稽古場だった。
ナルシーは壁に掛けられた二本の木剣を、まるで自分の指先のように軽やかに手に取る。
「疑うわけではないがね、アリアくん。……あのベーチャという男を、僕は決して軽視していない。盗賊の分際で、あれは『そこそこ』戦える。それこそ、並のAAランクが制圧できるほど甘い相手ではないはずなんだ。……だから」
言葉の途切れる刹那。ナルシーは手にしていた一本の木剣を、無造作に、しかし絶妙な放物線を描いて放り投げた。
まさにアリアの頭上に落ちるはずだったその「凶器」を、横にいたグレンの右手が吸い込まれるような自然さでキャッチする。
静寂。
稽古に励んでいた騎士たちが、一人、また一人と手を止め、その異様な光景に視線を注ぐ。
ナルシーは満足げな、そしてどこか残酷な微笑を深めた。
「そうだ。君だよ。僕と軽く勝負しようじゃないか」
ナルシーは、グレンが受け取ることを確信していたかのように顔色一つ変えない。
いや、最初からその地味な男が〝ただの従業員ではない〟ことを見抜いているようだった。
「……そういうこと、ですか」
グレンは手に馴染む木剣の感触を確かめ、小さくも、重い溜息を吐き出す。
グレンとてこの勝負を回避する事は、もはや許されないだろうと感じていた。




