アリアと黒幕
ベーチャはさすがシャトルファングの幹部だけあって、何が起きたかを瞬時に把握出来ていたようだ。
グレンを見て、明らかに警戒心を高めている。
「お前……何者だ?」
「べ、別にあなた達とケンカする気はないですよ。ただ、彼女を返してもらいたくて」
「くそが……、女を探しに来たって事か。いくらなんでも早すぎるだろ。遺跡に残した奴等は何してたんだ。おい、おまえら! ぼやっとすんな。こいつを始末すんぞっ!」
普通に返してくれるとも思ってなかったが、ベーチャの合図で他の盗賊達が一斉に剣を抜いた。
何故こうなるのだ……と、グレンは肩を落とす。
元々アリアに丸投げした形になった自分にも責任があるので、彼女だけは助けるつもりだったが。盗賊とケンカするつもりはなかったのだ。
仕方なく覚悟を決めたグレンは、アリアを地面に静かに横たえ、盗賊に向き直ると拳を強く握り締めた。
拳の色が徐々に不自然な灰色へと変化していくが、ベーチャ達がその変化に気付く事はなく、五秒後には全員が気絶して地面に突っ伏していた。
それは、アクセラレーションの効果がまだ切れていないグレンが、異常な程の速度で全員にボデイーブローを入れた結果だった。
しかも、グレンの拳は自己流の〝無詠唱魔法〟で石化させていた。彼等の腹部には相当なエネルギーが衝突した事だろう。
しかもベーチャに関しては、グレンも殆ど手加減をしていない。
相手は名のある盗賊団幹部。油断は禁物だと判断したのだ。
しかし、結果は驚く程アッサリ決着した。
拍子抜けだったが、とりあえずグレンはそそくさと荷車の中身を確認してみた。
中にはたくさんのガラクタ……もとい、発掘品があった。
おそらくは依頼対象の荷車だろうとは思うが、これの価値が盗賊なんかに理解出来るか? というのがグレンの第一印象である。
依頼主のサヴァロンには価値があるのだろうが、金にはなりそうにない。
そんな物を何故盗賊が持っていくのだろうか?
グレンには検討もつかなかった。
「さて……」と、グレンは再度気絶している盗賊達に目を向けた。
本来ならこの盗賊達に色々と聞かなきゃいけないのだろうが関わりたくない。
まあ、大体はアリアに聞けばわかる事だろうと、グレンは先ほど地面に横たえた彼女を再び抱えあげた。
相変わらず彼女も目を覚ましていない。
仕方なく荷車とアリアを連れ、グレンは再び遺跡付近へと転移する。
遺跡入り口まで歩いて行くと、最初にツタで拘束した盗賊達がやんややんやと騒ぎ立てるがグレンはそれを無視して、とりあえず荷車とアリアを一旦その場に残す。
次に意識のないベーチャ達も遺跡付近に連れて来ると、騒ぎ立てていた盗賊達は途端に黙り込んだ。
黙り込んだ盗賊達と一定の距離を空けて、ベーチャ達もツタで拘束した。
こうして盗賊を一つに纏めておけば、数日もすればルウラからの捜索隊がアリアを探しに来て盗賊も見付ける事になるだろう。
あと残された問題が一つ。
再びグレンはアリアを抱えあげたものの、相変わらず目を醒ましそうにない。
「うーん、彼女どうしよう。すぐに目を醒ますかなぁ? 荷車や盗賊はいいけど、彼女をここに寝かしておくのは危ないよな」
グレンは比較的多くの魔法を使えるが、回復系の魔法だけは使えないのでアリアをすぐに目覚めさせる術がない。
捜索隊が来るには二日はかかるだろうし、その間に魔物が出たら? なんて事を考えていたグレンに突然アリアが答えた。
「ねえ、置いてくつもりじゃないよね?」
腕の中のアリアとバッチリ目が合ったグレンは、驚いてアリアを落としそうになった。
落とされそうになったアリアも慌ててグレンの首にしがみつく。
「お、起きてたんですか?」
「ああ……うん。実は最初からね。かかえられちゃって言いにくくなっちゃった……後、ほら。転移とかしちゃうしさ」
「み、見られたんですか。転移……」
「うん。でも大丈夫だよ! ほら、私って口が固いからね」
アリアの『口が固いから』については口を滑らした事があるので若干の疑問を感じるグレンだったが。
それよりも、ずっとアリアに抱き付かれている事に気付いて緊張で体が強張っていた。
「な……なんかすいません」
「なんでグレンくんが謝るのよ。ってか、また助けられちゃったね」
「あの、何があったか聞いてもいいですか?」
「うん。その前にさ……もう下ろしてくれていいよ……」
頬を赤らめるアリアを見て、グレンは抱えたままだったアリアを慌てて下に降ろした。
すると、ボサボサになっている自分の髪を一生懸命手櫛で整えながらアリアは話始めた。
今回の黒幕について────




