一話 在り方(1)
「――おはよう」
ミライの言葉に意識が覚醒する。
起き上がる動作に違和感を覚えた。
「ん? 腕がある?」
「この星では、少し人類っぽい見た目ができるよ」
「本当だ。手もある」
光沢質な手を握ったり開いたりする。
爪等はないし、服は柔らかくはないけど、一応は人類のような見た目だ。
「なんだか少し人間に戻った感じがするね」
「ね! うれしい!」
笑顔を見せる娘達だけど、肌は肌色ではないし、髪は針金っぽいし、眼球や瞼はない。
人間を模した柔らかい金属のクリーチャーみたいだ。
「ミライ、ここはどこ?」
「ラニアケア超銀河団にある、シャプレー集中域の銀河団外縁にある棒渦巻銀河の情報構造航路結節域、多文明移住圏の共生圏の寄星」
「お兄ちゃん、もう一回」
「ラニアケア超銀河団にある、シャプレー集中域の銀河団外縁にある棒渦巻銀河の情報構造航路結節域、多文明移住圏の共生圏の寄星――もう言わないよ?」
「ちぇっ」
早速辺りを見回す。空には少し小さな太陽が浮かび、衛星らしき星が三個程浮かんでいた。
大気は時折オーロラのような光を帯び、地面は土というより金属なのだろう、銀色や褐色などの光沢感あふれる色が広がっている。
「ここはここで凄いねぇ」
悟が感心しながら呟く。
「まずはコロニーに向かおうか」
「うん」
嬉しそうに優希と朋里が私と悟の腕を引っ張る。
のんびり歩きながら、ミライはこの星について説明してくれる。
「この星は地球で言う多民族国家みたいな感じで、多数の異星人が暮らしているらしいよ」
「複数の異星人って……生態系違うのにここで生きていけるの?」
「ここに来る異星人は、基本的に魂の状態で来るみたい。そして今の僕らのように、この星に合わせた肉体を生成して暮らすみたいだよ」
「なるほど――だから、今回は人類の姿でもいいんだ」
「お父さん正解」
笑いながらミライが頷く。
しばらく歩くと、居住エリアらしき場所にたどり着いた。
地面から大きな丸いドーム状の球体が、そこかしこから生えている。
流動しているのか、表面の油膜のようなものが移動している。こちらから中は見えず、地面と同じ銀色の、不透明なシャボン玉のようだ。
家族で観察していると、ドームから金属製のナメクジのような生命体がヌルリと出てきた。目はないので、どちらかというとウミウシに近いのかもしれないけど、ナメクジということにする。
「――おや? 新入りさん?」
ミライが素早く前に出る。ナメクジは愉快そうに頭を上下に揺らす。
「新入りというか、旅行者かな」
「お、そうなの? どこから来たの?」
「LGX-44721 / VGX-188 / GRP-013 / GX-013-7842 / STAR-G2-77124 / PL-77124-03」
ナメクジは動きを止めると、少しして言葉――というか念話だけど――を返した。
「地球ってところから来たんだね。多種多様な生物はいたみたいだけど、文明的に君たちは人類かな?」
「そうだよ」
何かを読みながら喋るように、ナメクジは上下左右に揺れ続ける。愛嬌を振りまいているみたいで少し可愛い。
「あ……でも、既に滅んだんだね……君たちは地球を制御下に置いているみたいだけど、何か実験していたの?」
図星を突かれたミライが少し苦笑いする。
「そうだね……そして失敗したんだ」
「何を求めているか分からないけど、この星には色んな異星人がいるから、気になることを訊いて参考にするといいよ」
「うん、そうするよ。ありがとう」
見た目はナメクジなのに、ミライより高度な文明出身をうかがわせる発言に驚く。
ミライが「早速だけど」と口を開いた。
「君はどんな文明出身で、ここに移住した理由を教えてくれたら嬉しいな」
「いいよー。私の文明はCV-89446-11-B」
「……ちょっと待ってね」
ミライが空を見上げる――アカシックレコードで検索しているのだろう。
「なるほど。まだ存続してる文明だね」
「そうみたいだね」
「ちょっとミライ、どんな文明なの?」
「あ、ごめん。後で調べ方教えるね」
「君は調べ方を知らないんだ?」
ナメクジが私に向かって不思議そうに首を捻る。
「僕以外は滅んだ人類出身なんだ」
「なるほど。彼らは君たちの被造物だけど、君たちは一緒にいることを選んだんだね」
「うん。そうだよ……家族なんだ」
「家族……人類には面白い定義があったんだね」
ミライが少し照れくさそうに笑った。
私はナメクジがミライに対して『君たち』と言っていることに気が付いた。
――ミライの中に複数の人工生命がいるのを知ってるのかな?
「ナメクジさんの惑星には家族ってなかったんだ……」
朋里の呟きにナメクジが首を上げる。
「そうだね。私たちは、個は分裂で生まれるものだったから」
「え? 卵じゃないの?」
「卵……地球の生命体は面白いね。一度見学に行ってみたかったよ」
「優希、見た目が似てるけど、他の惑星だから卵では生まれないよ」
「そうなんだ……」
「分裂だから、コピーってことだよ」
「じゃあ皆同じだったの?」
「構成要素は同じだったけど、中に入っている魂はそれぞれ異なるよ。広大な宇宙でも、全く同一の魂は存在しないからね」
ナメクジの言葉に私は納得する。
同じものから生まれても、全く同じ人生は歩めない。つまり、記憶が異なるということは、魂――情報構造体は異なるということだ。
「家族がいなくて寂しくないの?」
「うーん。心細いという意味では、場合によるかな。私たちは他に依存していなかったから」
磁生体もそうだったのだろうけど、『寂しい』という感覚もない場合があるのかと驚く。
孤独感がないのは、ある意味幸せなのかもしれない。
――でも、私は孤独感のお陰で悟と繋がった……。
悟を見ると目が合った。微笑む顔に温かい気持ちが胸に広がった。




