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一話 在り方(2)

「人類は面白い魂をしているね。揺らぎが多い」

「揺らぎって?」

「感情のことだと思うよ」


優希の質問に悟が答える。

ふと、私たちの『揺らぎ』を食べに来たクラゲのことを思い出した。


――クラゲ、どうなったんだろう?


人類の半数以上を捕食し、ミライの気候操作により殲滅させられた宇宙のクラゲ。砂糖を入れてきな粉をまぶすと、くず餅のように美味しかったクラゲ。


地球に降りてこなかった部隊もいるはずだ。


アカシックレコードの読み方が分かったら、一度調べてみようと思った。


「お? 新入りさん?」


新しい声に振り向くと、抱き枕に沢山の脚が生えた生物がいた。

抱き枕は円柱の身体の先端から球を伸ばしてきて、私たちを観察するように動き回る。


「こんにちは。旅行者です」

「旅行者かー。どこから来たんだ?」


ミライはナメクジと同じような説明をする。


「へぇ、ゆっくりしていくといいよ。ただ、あんまり悪さするとこの惑星に滞在できなくなるから気をつけろよ」

「どういうこと?」

「あんた方の三組前に来た奴らは、旅行者のフリをした侵略者だったんだ」

「お、おう……」


急に殺伐とした話で思わず渋い顔をしてしまう。


「この惑星は調べたら分かるだろうが、情報構造体が主の惑星だからよ。住人に嫌われたら魂が惑星に拒否されるようになるんだ」

「拒否されたらどうなるの?」


抱き枕さんが辺りを見渡すと、「お」と声を上げた。

同じ方向を見てみると、何やら柄の部分が太い傘のようなものがふわふわ浮かんでいるのが見えた。


「キュロンベタロス星人に付き纏ってるポポポポローン星人がいるんだがな……ほら、見ろ、触手が伸びてきた」

「あ、掴んで振り回してる……」

「ああやって遊ぶから嫌がられてるんだ」


明らかに嫌がっていそうな傘型星人を弄ぶように、よく分からない触手だらけのイソギンチャクのような生物が触手を振り回す。


「そろそろだろうねぇ」

「だな」


皆で遠巻きに見守る中、それは突然起きた。


「――あれ?」

「溶けた?」


朋里と優希の呟きに、ナメクジと抱き枕が頷く。


「あれが惑星に拒否されたってことだよー」

「肉体が強制的に分解されて、魂も惑星外に追い出されるんだ」


私たちはもう一度キュロンベタロス星人がいた方を見る。ポポポポローン星人がいなくなって清々したとばかりに、傘が高く舞い上がる。


――この惑星は、処罰が自動実行されるのか……。


ミライのような管理者が見当たらない惑星で、こんなことが起きるのは意外だった。


「情報構造体が主の星ならではのことだなぁ……」


悟の呟きに私は頷く。


「ここに移住してきた人たちが情報構造体を熟知してるのもあるだろうね」

「文明的にも地球より遥かに進んでそうだよね」

「進んでなくても情報構造体を理解していればいいんだよ」

「でもミライ、理解するには進んでないと無理じゃない?」

「あ……」


私の反応に抱き枕が楽しそうに球を上下に振る。


「いいねぇ、そういうの。この惑星に来てる連中はたいてい、生きてた惑星の文明が滅ぶなり停滞してる所のヤツらだからな」

「あなたの星はどっちなの?」

「俺の惑星は、巨大隕石衝突だな。あんたらの地球と同じだ」

「宇宙ではあるあるだねぇ」

「クッソロエプロンは個体数の過多だったよな?」

「そうだよ。分裂し過ぎて惑星中が私たちで一杯になっちゃったんだよ」


――ナメクジで溢れかえる星……なかなかエグいな。


朋里が私の腕を引っ張り、小声で耳元に話しかけてくる。


「塩まいたらよかったんじゃないのかな?」

「うーん……クッソロ……さんに浸透圧は関係ないかもしれない……」


そもそもナメクジではないし。似てるけど。

あと名前の癖がなかなかだ。ミライの翻訳機能はもう少し頑張ってほしい。固有名詞の癖が凄くて内容が入ってきにくい。


「今も増殖し続けてるの?」


悟が好奇心を隠しきれない様子で質問する。


「そうみたい。今は死んだ個体が二層になってる感じだよ」

「すげぇな……」


サラッと言っているが、抱き枕さんの球体が後ろに下がってドン引きしている雰囲気があるので、一般的なことではないらしい。何故か少し安心した。


「あなたみたいに他の星に移住する個体は多くないの?」

「当時いた半数は移住したみたいだけど、残った個体が指数関数的に増えるからね」

「ここにはどれくらいの個体が来たの?」

「二十分の一くらいかな? ここは分裂しない身体だから、気が楽だよ」

「分裂って、自分の意思とは関係なくする感じ?」

「そうだよ。勝手に分裂する」

「それは……」


悟がひくりと頬を引き攣らせる。


――そりゃ、星がナメクジで埋め尽くされるわけだ。


「だからこの星が本当に気に入ってるんだよ。増えなくて済むから」

「そうだろうな」


抱き枕が荒々しく言った言葉に、優希以外の理解できる人間は深く頷いた。


「そういえば、暇だし案内してやろうか?」

「私も案内するよー」

「じゃあお願いしてみようか?」


ミライの確認に私達はワクワクしながら頷いた。

他にどんな異星人が住んでいるのか、とても気になるし、どんな生活を送っているのかも気になった。

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