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第3部 共に在ること  作者: 小島もりたか
1章 争いのない星
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二話 還磁(3)

「還磁終わった」


おチビが淡々と告げる。

磁生体達は本当に感情が希薄だ。感情が発露していない、機械的生命体に近いものがある。


――意志の共有もあるけど、感情が希薄なのも、争いが起きない理由の一つかもしれない。


「いっちゃったね……」


朋里の呟きが私の心に波紋を立てる。そう、彼は死んだのだ。私達の定義からすると、確実に死なのだ。

それでも、彼の死を悼む者は私達以外にいない……。


「そうだね……」


喉なんてないのに、何故か声が掠れた気がした。


――いや、意志の共有をし続けるからこそ、感情が希薄なのかもしれない。


皆で連れ立って地上付近まで降りていく。おチビ以外はあっという間に散って行き、残されたのは私達だけになる。


おチビが私達を見る。


「他に何か知りたいことある?」


私達は顔を見合わせる――この数日で、大体のことは知れたのではないだろうか?


「どうしたい? まだここで調査する?」


ミライの質問に「うーん」と唸る。


「時間はいくらでもあるから、彼等が許す限りは、お母さん達が望むようにしていいよ」

「うーん……」

「一応、目的は『ミライ達と共存可能な人類を考える』だね――その観点からすると……茜はどう?」

「うーん……一長一短?」

「ふふっ、まぁそうだよね」


私達の会話に、おチビが「ジンルイ?」と傾く。


「私達は、本当は人類っていう種族なの」

「シュゾク?」

「単一生命体だと、そんな言葉もなくなるのか……」


悟が感心したようにゆっくりと揺れる。


「それでも、他の星の生命体が来たりとかはしてないの?」


私の疑問にミライが小さく揺れる。


「霊体では来ても、僕らみたいに意思疎通出来る形では来てないみたいだよ」

「あー、普通の生命体だとここまでこれないのか……焼け焦げるというか……気化までしちゃうよね」

「そうそう。それに、そこまでのリスクを背負ってまで来る必要もないし」

「実質僕らが初めての来訪者ってことか……」

「え、私達が初めてなの?!」

「そのはずだよ、優希」


嬉しそうに優希がぴょいんぴょいん跳ねる――そうよね、誰かにとっての初めてってなんか嬉しいよね。


「そうすると、僕らが価値観とかを変えてしまう可能性があるのか――」

「そうだね――もう手遅れだけど」

「問題ない――私達は同じ、繰返す」


おチビの言葉に、還磁群を見上げた。途方もない数の磁生体の亡骸でできたコロニー……彼等はこれからも淡々と磁界を描き続けるのだろう。


私達が交流した磁生体は三十にも満たない。

しかも、ちゃんと交流した個体数で絞ると、二体しかいないだろう。

共有する彼等の文明では、私達との交流で生まれた新しい価値観も直ぐに平準化するのではないか?


――逆に一気に広がる可能性もあるけど。


約三千万年続く文明が破壊されたきっかけが私達との交流だったら笑えない。


気温を感じないのに寒気を覚えた。


――これからは、異文化交流するときは気をつけないと……。


私がひっそりと決意していると、ミライがやっと気がついたかと言わんばかりにこっちを見ていた。


「――それで、どうする?」

「私は、もう行ってもいいよ!」

「私も新しい星に行ってみたいかな」


この星は子どもには少し退屈な部分があったのかもしれない――子どもいないもんなぁ……。遊具もないし……。


「僕も次に行っていいかな」

「じゃあ多数決でここの星の見学もこれでお終いだね。次の星に行こう」

「ぐっ……ハイ」


考えている間に出発が確定してしまった――なんか悲しい。


「それじゃあ、他の星に行くことにするよ」

「わかった」

「短い間だったけど、ありがとう」


皆一人一人お礼を言うと、おチビが少し固まった。初めて会った時から感情の薄い種族だったが、それでも今は何かを考えているように見えた。

そして、一つ上下に揺れると言葉を発した。


「――また、リンネの先で会おう」

「ふふっ、覚えるの早いね」

「共有したから――役割行く」


おチビはそう言うと、さようならも言わないで移動していった。


――この星には『別れ』の概念がそもそもないのかもしれない。


「彼等は人間というより、蟻の方が近いのかもしれないね」


悟がおチビを見送りながら呟いた。


「個体として生きているのに、群体として完成されていて、群体がまるで一つの生命体みたいだ」

「……確かに、そうだね」


集団に属し、己に課せられた役割を淡々とこなす存在……確かに蟻の方が近いのかもしれない。

蟻とは違って多少の感情はある――磁界の描き方で一応は盛り上がるし――けど、あり方としては蟻の方が近い気がする。もしくは、蜂。


「折角だし、他の星に行く前にこの星の記録を皆でまとめない?」

「いいね! まとめておいた方が後からでも振り返りやすいし!! 朋里も優希も、書いてみない?」

「やってみる」

「うん!」

「じゃあ、それぞれまとめたら僕に報告して――まずは還磁群から離れた所に移動するよ」


「はーい」と各々返事をして、移動する。

他の八面体から見えない場所まで行ったら、磁生体の身体を脱ぎ捨ててそれぞれレポートをまとめ始めた。

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