二話 還磁(2)
それから、巨大八面体はチビ八面体に、自分の作業を実演で引き継いでいった。
知識自体は意識共有で一瞬で完了――というか、生まれた瞬間には共有していそうだ。
なので、実演部分のみだ。
おチビは生まれたてのはずなのに、人間の赤ちゃんとは異なり、既に成人のような振る舞いをした。
そのことも、私達を驚かせる――まぁ、生まれた瞬間に全ての情報を記憶済みなら、そうなるのは妥当なんだろうけど……。
「積層すると、言葉の通り大きくなっていくんだろうね」
悟がおチビと巨大八面体を比較しながら言った。
「積層しすぎると、重くなって高く上がれなくなるのもありそう」
「そうだね。大きくなりすぎると移動できなくなるから、ギリギリで還磁するのかもしれない――そして、それが寿命となる……」
「うん。やっぱり全然、生物としてのあり方が違うね」
私の言葉に悟が笑う。
「本当にそうだね――ミライ達に連れてきてもらわなければ、こんな生物がいるなんて思いもしなかったよ」
「そもそも、こんな高温の星に生物がいるなんて思わないしね」
「確かにね――こんなに近くに恒星があるのに、何も気にしなくていいなんて……」
人類の身体ならそもそもこの場に居られないが、こんな近距離に恒星があると眩しくて仕方がないだろう――あと、紫外線も大変な量だろうな……。
「この星には、ミライ達みたいな存在はいないの?」
「いないよ。完全に独自進化だね」
「うわぁ、余計神秘的……」
「こんなに恒星があって、恒星の何倍もの数の惑星もあるんだから、独自進化した生命体がいるのはそんなに神秘的じゃないよ」
「まぁそうなんだけどさぁ……」
空を見上げる。気化した金属が空でキラキラと揺れる。
「太陽が沈み始めたね……」
朋里がぽつりと呟いた。
少し離れたところでは、おチビと優希が磁場遊びをしている。
星の磁場を利用して、より高く跳ぶだけの遊びだ。
「長かったね……」
呟いた言葉が、自分でも分かるくらいしみじみとしていて笑ってしまう。
本当に、この星の一日は長い。なにせ地球だと十二日にあたるのだから、驚きだ。
赤みがかる恒星を朋里とぼうっと見上げた。
――もうすぐで、『彼』は死ぬ……。
正確には還磁する――星に還る。
物思いに耽っていると、おチビがこちらにやって来た。
「還磁の手伝いに行くか?」
「え、もう? ――もちろん行くよ」
「分かった。行こう」
おチビに連れられて皆で巨大八面体の所に行く。
巨大八面体は私達を待っていたようで、この前教えてくれた場所でぽつんと浮いていた。他にも手伝いに来たのか、知らない八面体がわらわらと十体ほどやって来た。
「――上まで飛ぶ手伝いをする」
「分かった」
「ありがとう」
巨大八面体に淡々とお礼を言われて、何と言っていいのか分からなくなる。短い付き合いだったけど、永遠の別れであることには変わりない。最後の言葉を探しているうちに、上へ上がり始めた。
「短い間だったけど、案内とかありがとう」
悟が口火を切ると、朋里と優希も続く。
「楽しかった、ありがとう!」
「元気でね!」
――死ぬのに元気でね、とは?
優希に心の中でツッコミつつ、私も伝える。
「ありがとう。また輪廻の先で会えることを祈ってるよ」
「リンネ?」
聞き返されるとは思っていなかったので、少し驚く。
「私達には魂っていう、命の源があるの。そして、魂は肉体を巡る――それを輪廻っていうの」
「タマシイ――私にもある?」
「あるよ。視えるから、分かるよ」
この星の磁生体達は皆似通った魂をしているけど、やっぱり少しずつ違う。役割や生まれた時期による差なのかもしれないけど、やっぱり少し――ほんの少し違う。
「肉体はこの星に還る。けど、魂は違う場所に行って、新しい命として生まれ変わる」
ミライの言葉に私は頷く。
「だから、還磁してもいつか会えるかもしれない――私はそれを楽しみにしているよ」
「分かった――またリンネの先で会おう」
「うん」
朋里や優希も頷いた。
あっという間に、彼の還磁先に辿り着き、彼はゆっくりと目標の場所に嵌まり込んだ。
「――ありがとう」
彼はそう言ったきり、沈黙した。
先程までと何ら変わりない姿――だけど、魂はしっかりと肉体を離れていた。
彼の魂は、初めて見る自分の肉体をじっと見つめた後、すうっと溶けるように空気の中へ消えていった。
私達はその様子を言葉もなく見つめた。
涙を流せる肉体ではなかったけど、心の奥がきゅっと傷んだ。




