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第3部 共に在ること  作者: 小島もりたか
1章 争いのない星
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二話 還磁(1)

「――あと、どれくらいで還磁するの?」


朋里が恐る恐る問いかける。


「次の暗黒期の前には」

「アンコクキ?」

「この星で言う、夜みたいなものだよ。ただ、暗黒期は地球でいう六日間くらいある」

「あとどれくらいで暗黒期なの?」

「えーっと、あと三日くらいだね」


夜が六日もあることにも驚いたけど、意外と直近なことを知り、私達は驚く。


「本当にあと少しの寿命じゃん!」

「そうだね、お母さん」

「でも、全然落ち着いてるよね。死の概念がないと、こんなものなのかな?」

「恐れる必要がないなら、そうなんじゃない? そもそも、お母さんもそこまで恐れてなかったじゃん」


意外な発言に私はどきりとする。


「いやいや、家族が家族じゃなくなるんだから、嫌だったよ?」

「でも、また霊界で待ち合わせして、打ち合わせして転生したらいいやー、くらいの考えはあったんじゃない?」

「あー、まぁ、それは……そうですね」


なまじ霊を観測していたので、魂の存在は認識していたし、輪廻転生もあると認識していた――実際に前世のタマから、悟の妻になった訳ですし……。


「……いやいや、でも死ぬのは怖いよ?」


私の言葉にミライは肩を竦めるように小さく揺れた。


「あなたは、今のところどこにハマる予定なの?」


朋里の質問に我に返る。


「……」


八面体が見上げるように僅かに傾きを変える。


「説明したいが、今はそこまで上がれない。共有できないのは不便」

「私が行ってみるから、指示して!」


優希がぴょんと跳ねて上がっていく。


「もっと上――右……まだ上がる」


八面体が指示をして、優希がたどり着いた場所は、還磁群の中でもかなり上層に位置する場所だった。


「――そこに私が還ると、より美しい磁界に近付けると思う」

「美の基準は磁界なんだ……」


流石、磁石の星の生命体と言えばいいだろうか……。


優希が降りて来る途中で、数体の磁生体に話しかけられる。


慌ててミライ達と上まで登ると、優希が困ったように揺れていた。


「――磁界の話をしてくれてるみたいなんだけど、よく分からなくて……」

「あそこより、あちらも美しくなると思う」

「こっちも魅力的……」


優希を引っ張るように連れて降りると、彼らも一緒に降りてきた。


巨大八面体と何やら会話をしているようだけど、意識共有の方で意思疎通しているようで、こちらにはやり取りの内容が全く伝わらない。


ただ、三体は楽しそうに還磁群を見上げる素振りをしては盛り上がっている――還磁群で描く磁界を構想するのは、磁生体の楽しみの一つなのだろう。


しばらくして三体が解散すると、巨大八面体が近付いてきた。


「あなた達、磁界が希薄。大丈夫か?」

「ありがとう、大丈夫だよ。長居するつもりがないからさ」


ミライがふわふわと左右に揺れる。


「磁界なくなると、還磁できない。心配」

「僕らは還磁する予定はないから、大丈夫だよ」

「ならどうなる?」

「他の星にも、こうやって見学に行くんだ」

「なるほど……」


それから、巨大八面体にこの星の競技や芸術的なものを見せてもらったけど、どれも私達には理解できなかった。


――磁生体達は眠らないらしい。


会話するうちに判明した事実に少し羨ましさを感じる。


「作業したくても、眠気でできない――なんてことが起きないのね……」

「身体の作りが違うと、こうも生活が変わるんだね」

「脳がないってことよね?」

「たぶん、そうだね」

「――どこで色んな処理をしてるのかな?」

「そもそも、この身体の内部構造がどうなってるかだよね?」


悟と二人でちらりとミライを見ると、ミライは呆れたような声で教えてくれた。


「コア部分は液体金属。それを利用して自身の磁界を操作している。脳とかはない。強いて言うなら、表層の八面体部分」

「液体金属の内容は?」

「――それって、人間の体液の構成要素を聞いてるようなものだけど、知りたい?」

「あ――……」


悟は知りたそうだったけど、私は聞くのをやめた――どうせ、覚えたところでほとんど意味はない。


のんびりと時間が過ぎていく。


巨大八面体が私達と会ってから二回目の積層に行くと、出てきた時に極小――と言っても大人の拳大の八面体を連れてきた。


「――子ども? 生んだの??」

「ちっちゃい! 可愛い!」


優希と朋里が、自分達より小さな八面体に大興奮する。


――小さな八面体を見て可愛いと言うあたり、この星に順応するのが早過ぎない?


「私の役割を引き継ぐ個体」

「そうか……自分の担当の引き継ぎ作業をするのか……」


ぼんやりと呟いた悟の言葉に、還磁する当の本人より、私達の方が寂しさを覚えていた。


たとえ短い期間の関係でも、誰かの死に目に会うのは悲しく寂しいと改めて思った。

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