三話 地球のあした(2)
ジロリとミライは悟を見上げた。
「お父さん、アシタの前でその話はやめてよ!」
「いや、これはミライ達にとって大事なことだ。アシタの前だからとか、関係ない」
『私もそう思う』
「ハジメまで何言ってるの?」
家族喧嘩をする中、アシタがポツリと呟く。
『消滅しようと、してたの……?』
ミライはやけっぱちとばかりに言う。
「そうだよ、一回諦めてた!」
『……なんで?』
「何回試行してもダメだった上に、お母さん達が前文明の遺物のせいで大変な目にあったんだ。魂は守ったのに、転生させるための人類が整わない。絶望だったよね!」
『諦めたのなら、こっちに来てくれても良かったじゃん!』
「求めてるものが違ったもん!」
『消滅するくらいなら、手助けしてくれても良かったじゃん!』
「疲れてたんだよ!」
『落ち着け、ミライ』
静かにハジメがミライの手に触れる。
小さな芋虫の姿のハジメが、やたらと大きく見えた。
――ハジメという名前なら、一番最初の不滅個体なのだろうか……?
「ミライ。僕が伝えたかったことは、そこじゃない――一度他の仲間に聞いてみて欲しいんだ」
「何を――あぁ、そういうこと?」
『何? 何? どういうこと?』
困惑するアシタを無視したまま、ハジメがミライの手に乗り、ミライの中に消えていく。
その状況に、アシタは更に焦る。
『待って、何をしてるの?』
「大丈夫だよ、アシタ。聞いてみてもらってるの」
「何を?」
優希も不思議そうに首を傾げる。
少しして、ミライの手から芋虫、トンボ、カブト虫、カマキリが出てきた。
『皆に訊いてきた』
『だから、何を――?』
「ここに残って、アシタ達を手伝うかだよ」
『え――?』
バッタは硬直する。そして、芋虫――ハジメが身体を起こす。
『アシタ、ツヅクとミチとユウキがここに残るそうだ』
『ウソ――?』
キョトンとするアシタに、カマキリが近寄り頭を撫でる。
『アシタ、久しぶり。残ることにしたから、もう悲しまないで』
『え? ツヅク――残ってくれるの……?』
三匹の虫達は揃って頷いた。
『一度は消滅しようと思った身だ。役に立てるなら力になるよ』
『理想の人類はいいの……?』
『まぁ、一回諦めたし、いいよ!』
『ミライ達と過ごしてて、悪くないなって思ったしねー』
『みんな……』
大きな水たまりを作るほど涙を零すバッタを、他の虫達がよしよしと頭を撫でて慰めた。『寂しかったね』『頑張ったね』と。
アシタのゴリ押し宣伝は、ミライには効かなかったが、ミライの仲間達には効いたらしい。
――良かったね……。
安心して、少し頬が緩んでしまう。
その光景を苦笑いしながら見つめるミライと、安心したように伸びるハジメ。
「でも、管理者のルール変更しないといけないんでしょ? どうするの?」
『たぶん、大丈夫。非常用の呼び出し機構があるから……』
そう言って、しばらくすると何やら外から四人の人が困惑しながらやって来た。
「あの――なんだか、呼ばれた気がしたのですが、よく分からなくて……?」
「私もなんです。こんなこと初めてで……」
「あなた達はなんなのでしょう?」
「何か知っていますか?」
『急に呼び出してごめんね、ツナグ、ノゾム、ユメ、キボウ』
アシタに名前を呼ばれた瞬間、四人は揃って目を見開いた。そして揃って頭を掻く。
「――アシタ、どうしたんだ?」
『その、分かる……?』
「分かるってなにが――あ」
「ハジメ、皆?! 来てくれたの?!」
「うわー、久しぶり!!」
そしてわちゃわちゃと和みだす。
『輪廻中にごめんなんだけど、その……この三人が合流してくれることになってね……』
「ん? 全員じゃないの?」
『そうなの。理由は省くけど三人――それで、管理者のシフトなんだけど、八人になるでしょ? 二人一組で回したいなって……いい?』
モジモジしながら言うアシタに、四人は顔を見合わせる。
『……』
そして頷き合うと、破顔した。
「ありがとう、二人一組にしてくれる方が助かるよ!」
『五百年周期が四百年になっても……?』
「いい、いい! 実はちょっと管理者の時、寂しかったから」
「実は僕も……」
「私も――ちょっとじゃないけど」
『みんな――』
そして五人は照れたように笑い合う。
――みんな同じことを思ってたけど、コミュニケーションに失敗してたのね……。
仲の良さそうな五人の姿を見て、私は力が抜ける。なんやかんや緊張して見守っていたらしい。
「なぁ――アシタ、この人達は誰なんだ?」
『あぁ、この人達はミライ達の大切な家族だよ、ツナグ』
「家族――」
「アシタ、」
アシタの言葉にちょっと異議が出てきて口が尖ってしまう。
「ミライの仲間なんでしょ? じゃあ家族とは言えなくても、アシタ達の親戚くらいになってもいいんじゃない?」
アシタはキョトンとした後、くすぐったそうに笑った。
『そうだね――そうしよう。ツナグ、この人達は、私達の親戚だよ』
「ふふっ、そうか、親戚か――」
そこから久しぶりに揃ったメンバーで同窓会が始まったのは、言うまでもない。
ちなみに、今までずっとミライの中にいて直接会ったことがないメンバーも全員出てきた。
色んな種類の虫が集会を開いているみたいで、ちょっと面白かった。




