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第3部 共に在ること  作者: 小島もりたか
1章 争いのない星
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一話 死者の壁(2)

巨大な黒い物体は、近付いてみるとゴツゴツしていた。


「これは――この星の生命体がくっついているみたいだね」


悟の言葉に納得する。


確かに、このゴツゴツは私たちが現在被っている八面体の姿によく似ている――だけど、一つ一つは私達に比べると遥かに巨大だ。


「あ――」


頭上を見知らぬ八面体が通過していく。


この星は重力をあまり感じない。おそらくこの身体は金属類で構成されていて重量はあるはずなのに、高く浮遊することは容易だった。


奇妙な気持ちで頭上を通り過ぎた八面体を見送っていると、巨大な八面体が私たちの横に音もなく現れた。


「……?」


私たちの存在に気がついたのか、立ち止まる。


「何者?」


私たちが行っていた念話と同様に、八面体の言葉も私たちに届く。


言語や発声器官の問題は、非常に有能なミライが全て解決してくれている。


ミライが一歩前に出た。


「僕らは、この星の外からやって来た者だよ」

「この星?」

「――還磁の外さ」

「還磁の外……?」


困惑しているのか、何か考えているのか、大きな八面体は動かなくなる。


「理解。還磁以外にも、磁生体はいた」


――本当は人類だけどね。


磁生体が困惑するので訂正は入れない。


「僕たちは還磁の見学をしに来ただけだから、敵意を向けないようにしてくれると有難い」

「見学? 何を見たい?」

「あー、皆――何見たい?」


ミライがこちらに問いかけてくる。


「あなたの生活が見たい。どんな暮らしをしているのか、ついて行ってもいいかい?」


悟が言葉を発すると、目の前の八面体がしばらく停止してから、ゆっくりと揺れた。


「わかった。来るといい」


巨大八面体はそう言うと、他の小さな八面体に比べるとかなり低い位置で移動を始める。


「ねぇ、お兄ちゃん、お父さんは直接話しかけてもいいの?」

「今は僕の目の前で話しかける分なら問題ないよ。僕のいないところや、僕に何も聞かないまま急に話しかけるのはやめてね」

「わかった」


優希が納得したように頷き、巨大八面体に問いかける。


巨大な八面体の傍を、小さな八面体がふよふよ動き回る光景は、なんだか可愛らしい。


「今から何をしに行くの?」

「積層だ」

「何それ?」

「あなた達は行わない?」

「たぶん、しないよ?」

「……理解。だから、あなた達と同期できない」

「同期? 何を同期するの?」

「全て」


彼の言葉に、私達は顔を見合わせる――顔は無いけど、気分的にという話だ。


――だから、彼はすぐに私達が異分子であることに気が付いたのか。


「ほぼ同等の構成要素で身体を作ってたのに、すぐバレたのはこのせいだったのか……」

「同期の先はたぶん、情報構造体――魂だよね?」

「つまり、彼が僕らに話しかけてる方法は、通常は行わない会話方法なのかもしれないね」

「そう。手間だから、同期の方が早い」


「なるほどね……」


悟が納得したように揺れた。


巨大八面体が大きな黒い何かの真上で立ち止まる。


黒い何かは揺らめき、ひび割れ、ひび割れた箇所からはオレンジ色の光が見えた。


「――積層する」


彼はそう言うや否や、ゆっくりと黒色に沈んだ。


全てが見えなくなるまで沈む。


――溶けた金属の湖……。


やがて黒い湖面が盛り上がり、再び巨大八面体が姿を現した。


オレンジ色の滴を垂らしながら、またゆっくりと移動を始める。


「積層した」


湖の向こうの方でも、様々な大きさの八面体が湖に沈んでから出てくるのが見えた。


しかしながら、目の前の巨大八面体より大きい八面体は見当たらない。


「――もう終わり? 結局、積層って何だったの?」


朋里の疑問に悟が笑う。


「僕も断定は出来ないけど、僕らで言う食事だったのかもしれないね」

「何かに浸かるのなら、お風呂なんじゃないの?」

「確かにその考えもあるけど、汚れを落としてる風ではなかったからね」

「あー、確かに」

「見えなかっただけで、実は排泄だったかもよ?」

「ショクジ、オフロ、ハイセツ?」


八面体が不思議そうに私に振り向く。


正直、目などの顔を象徴する物がないので、どちらが正面かは分からないけど、とりあえず角度を変えたのは確かだ。


「体内で不要になったものを身体から出したりしてない?」

「失うものはない。全て身体になる」

「逆に、何か体内に取り込んだりしてる?」

「体内には取り込まない。全てと同期している」

「うーん、生態系が違いすぎる……」


私が頭を悩ませていると、悟が笑う。


「面白いね」

「面白いけど、人類の参考にはならないよ」

「参考にするのは、もっと別のことじゃない?」

「それはそうだけど……」

「全てと同期するということは、意識を統一するということだ――つまり、この星では争いは生まれない」

「皆仲良しってこと? 凄いねー」

「違うよ優希、喧嘩しないからと言って仲良しとは限らないよ」

「え? そうなの?」


不思議そうにする優希に、私と悟とミライは何とも言えない気持ちになった。

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