二話 思想の不一致(2)
『ねぇねぇ、それなら、しばらくここで暮らしてみない? きっと良さが分かると思うんだ!』
ホテルに戻った後、アシタがミライの肩の上で跳ねる。
『しばらくとはどれくらいだ? 期間を設けないことで、あわよくば移住も狙ってるだろ?』
『もう、ハジメは余計なことを言うんだからー』
「ハジメじゃなくても分かるよ」
三人のやり取りがおかしくて思わず微笑んでしまう。
――私達に見えないだけで、ミライの中ではハジメ達とこんなやり取りが広がってるのかな?
会ったこともない他のメンバーとミライのやり取りを想像して、ちょっと笑ってしまう。
アシタがミライの肩から飛び立ち、優希の膝の上に乗る。
『ねぇ、優希ちゃん、ちょっとこの星で遊んでいきたいと思わない?』
優希は私と悟とミライの顔を覗くように見たあと、少し照れながら小さく「――うん」と頷いた。
シメシメとばかりにアシタが飛び跳ねる。
『ミライ! ほら! あなたの大事な家族もこう言ってるよ!』
「今、明らかに言わせにいってたでしょ?」
『合意が取れれば関係ないよー!』
「くっ……憎い……!」
『憎しみは何も生みませんよ……』
「急に悟り系になるなよ!」
『今は私の管理個体だから、その憎しみも消してやろーか……?』
「急に怖いわ!」
『管理者というより、魔王だな』
『あら、失礼ねー』
アシタがハジメに乗り移り、ハジメの頭を齧り始める。
『痛い痛い』
「まぁ、滞在するのはいいけど、期間を設けるのには僕も賛成だよ」
『わーい! 悟、ありがとう!』
ミライが「はぁ……」と大きめのため息を吐く。
「お母さんと朋里もいいの?」
「いいよ! ちょっと気になってたから!」
「私もいいよ」
「僕の味方は不滅個体仲間だけか……」
肩を落とすミライに私は笑いかける。
「まぁいいじゃないの? 二億年ぶりの同期なんでしょ?」
「会いたくなかったから二億年ぶりなの、分かってよー」
『会いたくなかったなんて酷いなー、こっちは会いたくて会いたくて仕方がなかったのにー!』
「人手増やしたかっただけだろー!」
『一応、懐かしい面子にも会いたいのは会いたかったよ?』
「ハイハイ」
『もー、つれないんだからー』
そんなこんなで、約三十日間の滞在が決まった。
『早速お家造ったから、行こうよ!』
「え、もう?! っていうかどういうこと?!」
『建物は基本的に管理者が建造するからねー』
アシタに軽い調子で案内されるまま、ホテルを後にする。ホテルを出る際に悟が「犯罪者みたいだ」とソワソワしているのが面白かった。
案内された場所は管理者の巨木の近く。平屋の建物二軒だ。
「ひと家族分だから二軒もいらないよ、アシタ?」
私の言葉にアシタは首を傾げる。
『あ、ここでは基本、子ども一人、大人一人だから、これが普通だよ?』
「あー……」
それぞれ孤立した二軒のスケスケの家に、私達は戸惑う。
――スケスケだから、隣の家の様子くらいなら見えるけど……。
「私達、三人兄弟なんだけど……」
朋里の言葉にアシタは笑う。
『ミライは別枠でいいでしょ?』
「いやいや、僕も守山家の子どもだよ?」
『あなた、変なところに拘るね……』
「いやいやいやいや、これは譲れないよ?」
アシタとは反対のミライの肩でハジメも神妙に頷いているのが可愛らしい。
『えー、あなた達はこっち側でしょ?』
「それは、今アシタが管理者してるからでしょ? ノゾム達は人類側だ」
『えー』
「でも、お兄ちゃん、お家問題は解決しないよ?」
「そんなの簡単だよ。二軒あるけど、一軒に住めばいいんだ」
「狭くない?」
「大丈夫、脅せばいいよ。ルールを押し付けられてるだけなんだから……ね?」
ミライはアシタを鷲掴みにすると、顔を近付けて小声で言う。
「やってくれなきゃ……分かるよね……?」
『くっ……背に腹は代えられないか……』
アシタが観念したように呟くと、両方の家が潰れ、その代わりに先程より大きな家が生まれた。相変わらずの平屋だ。
「すごーい!」
『ありがとう、優希ちゃん。可愛いね……。どう? 優希もここに永住しない?』
「ちょっと暮らすだけって言ってるだろ……?」
『ぴぃ……怖い怖い』
とりあえず仮の自宅に入る。
相変わらずの透け感。清々しい。
『さぁさぁ! 夜だしもう寝よね!』
「え? お風呂は?」
『……ん? お風呂?』
アシタの反応に嫌な予感がする。
『あー! お風呂! 懐かしい!』
「懐かしいってことは……?」
『ここは雨がシャワーだね』
守山家女性陣三名は膝から崩れ落ちる。
――久しぶりにお風呂が入れると思ったのに……!!




