二話 思想の不一致(1)
『そもそも、破局する可能性のある恋愛なんてノイズでしかないんだよー。つまり男女は不要。ついでに男女による差別はなくなる……素晴らしくない?』
目をキラキラさせて言うアシタに、悟は腕を組んで唸る。
「え、でも、誰かを好きになるってステキなことじゃないの?」
朋里の疑問に、アシタは首を勢いよく横に振る。
『デメリットが大き過ぎるよ! 争いの元! 色恋沙汰でどれだけの人が傷ついてきたか……』
「でも、好きにならないと結婚しないでしょ?」
『ここは結婚なんて面倒な概念はないよ』
「え……じゃあどうやって赤ちゃん生まれるの?」
『さっきも言ったけど、私が生んでるんだよ!』
「じゃあアシタがお母さんなの? みんなの?」
『製造者としてはそうだけど、お母さんっていう概念もないんだってー』
朋里と優希が私にくっついた。
「お母さんとお父さんがいないと寂しいよ……」
『大丈夫。最初からいなければ寂しくないよ! それに、『養育者』はつくから!』
アシタの説明に、昼間の光景が合致する。
『私達は、この文明にはプラスの感情しか欲しくないんだよぅ』
「それは……君が人類の幸せを調整しているということかい――?」
悟の質問にアシタが『そうだよ!』と嬉しそうに跳ねる。
『正確には私以外もいるけどねー。交代で管理者をやってるから、今は私が管理者だけど』
「それって、楽しいの?」
『なぁに、ミライ。そんなに怪訝そうな顔してー。もちろん、管理者はあまり楽しくないよー。でも管理者を外れて人類として人類と共存してる時は幸せよー』
「でも関係性に深い繋がりはないんでしょ?」
『あなた達、まだ人類との関わり方にも拘ってるわけ?』
「そこは重要でしょ?」
ミライはギラリとアシタを睨む。
『でも大切な人との『別れ』っていう概念は悲しいじゃない? あなたも、別れたくなかったから、今家族といるんでしょ?』
「それは……うん……」
『ほーら! なら、最初からその概念をなくせばいいのよ!』
「いや、それは違うでしょ?!」
『でも未だにあなた達は最適解を出せていないんでしょ? それが答えじゃないの?』
「それは……いや、でも! 今は改めて探してる最中なの!」
――なるほど、これが仲違いの原因の一つではあるみたいね……他に何個あるか知らないけど。
『ちょっと、ハジメ! ミライにばっかり話させてないで、あんたも出てきなさい……!』
――え、出せるの?
今さらな事実に私も悟も、朋里も優希も顔を見合わせる。
じっとミライを見つめていると、ミライの肩から青虫が出てきた。
『アシタ、そんなにとやかく言わないで欲しい』
『とやかく言うよー。こっちは少しでも管理者の時期を減らしたいんだから。人手が欲しいの、人手が!』
「僕らを巻き込まないでよ」
『あなた達以外に巻き込める個体はいないでしょ?!』
「やっぱり、アシタ達の人類は、僕らが目指す人類じゃないと思うんだ」
『どこが?!』
アシタが怒張点と言わんばかりに大きく跳ねる。
バッタの羽に夕日が透ける――もういつの間にか夕方になっていたのか……。
人類がのんびりする一方で、人工生命体達の口論は続く。
「身体がひんやりしてる……」
『植物ベースだからね』
『食文化が一辺倒だな』
『植物ベースだからね』
「お洒落がない」
『衣服は光合成の邪魔だからね』
『建物も一辺倒だ』
『遮蔽物は光合成の邪魔だからね』
ミライとハジメという個体は、アシタに次々とダメ出しをしていくが、アシタはアシタで気にしない――強い。
『――もう! あなた達、どうしてここの人類が最高の人類って分からないの?!』
「いやいや、それ、『私の考えた最高の人類』でしかないから。井の中の蛙だよ」
『アシタ達にとっては最高なんだろうね』
「だよね」
『あなた達って、本当にセンスがないよ……ねぇ、よく考えてみて。あなた達の人類の文明は最高何年続いたの?』
「――五万年くらい」
アシタはミライの言葉を聞いて胸を張る。
『こっちは三十万年よ! ほーら、こっちの方が優れてる!』
『文明の寿命的には、そうかもな』
「寿命的には、ね」
『もーう! なんで負けを認めないの?! ツナグ達に参加してもらえれば説得できるのに……!』
バッタの脚で地団駄を踏む様はなんだか可愛らしいが、内容は可愛くない。
苦笑いしながら様子を見ていると、優希がそっと私の腕を引っ張った。
「……お母さん、そろそろお腹すいてきたぁ」
「あー、確かに? 空いてるかも?」
私達の会話に、三人がぎゅるんとこちらを向く。
『ごめんなさい、食事にしましょうか!』
そう言って案内されたのは、街のレストランだった。
大衆食堂のようで、それなりに賑わっている。ガヤガヤと楽しそうに料理を食べている様子に、私も食欲が増す。
「うーむ……」
「メニュー、よく分からないね……」
メニューの文字は読めるが、単語の意味が分からなくて困る。
「ポポルンのペペロン?」
「語呂はいいよね……」
「アシタ、何かオススメはあるかな?」
『うーん。ガッツリいきたいなら、ルルアンプージュ。さっぱり系ならマーゾーレ』
「ダメだ、全然想像ができない……写真とかないの?」
『ないよー』
「そうか……」
とりあえずオススメされたルルアンプージュとマーゾーレを注文した。
どうやらルルアンプージュは豆腐ハンバーグのようなもの。マーゾーレはうどんのようなものだった。
分かるわけがない。
しかしながら、味は美味しかったのでペロッと食べられた。
店を出る時、悟が「無銭飲食みたいで落ち着かない」と呟いているのが聞こえてきた。




