一話 親戚(2)
「五名……ですね?」
「はい」
ホテルの受付の人に問いかけられ、悟が頷く。
しかし、視線は怪しそうに私達の身体に巻いている蔓をなぞる。
「その……なんで草を身体に巻いているんでしょう? 大丈夫ですか……?」
「大丈夫です。本当に……」
「病気とかですか?」
「あ……まぁ、そんなものと思ってもらえれば……草の代わりになるものがあると嬉しいのですが……」
悟が気まずそうにしながらも交渉してくれる。
「それなら手拭いをお渡ししましょうか?」
「あ、頂けるのなら嬉しいです」
受付で家族分の手拭いと、ついでに針と糸を借りることに成功する。
安心しながら客室に入ると、やっと一息つけるとベッドに腰掛ける。
「凄い、壁も床も天井も全部透明! 日当たり良好!」
「光合成が捗りそうだね」
「葉緑体でしょ!」
「そうそう。よく覚えてるね」
「へへへ!」
優希が悟に撫でられて嬉しそうに顔をくしゃりとする。こんなやり取りも久しぶりに見た気がする。
改めて天井を見上げる。上にも階があるが、上の様子は間取りまで完璧に分かるほど透け透けだ。というか、この惑星の建造物は基本的に全て丸見えだった。
プライバシーの概念がないのか、光合成を極めているのか、とにかく透明が正義とばかりに壁はスケスケ、天井も床もスケスケ。
――高所恐怖症には辛いかもしれない。
こんなスケスケ文化も、性別がないからできるのかもしれない。
――蔓を身体に巻いただけで不審者扱いだもんね。
皆でチクチクと、それぞれの簡易的な服を縫う。
単純に手拭いを二枚縫い合わせただけの、簡単な服というか、ほぼ手拭いだ。
「――蔓よりはマシかな?」
薄い緑色の手拭いを皆で身体につけて確認し合う。
「変態扱いされるのも嫌だけど、裸も嫌だもんね……」
「だよねぇ……」
裸が文化とはいえ、こちらにも固定概念は残っている――恥ずかしいものは、恥ずかしい。
『あー、光合成の効率悪くなるよ……』
「いいの。思春期の子どもに裸なんてさせられません!」
『思春期……思春期ねぇ……』
噛み締めるように言うアシタ。
どうやらこの惑星の子どもには思春期はないようだ。
「ねぇ、ホテルに泊めてもらうのに、本当にお金はいらないの?」
朋里が不思議そうに問いかける。
『地球では、お金という概念は今はないよ』
「え、ここ地球なの?!」
『ん? 地球だよ……あ、君達の星も『地球』だったの? ……もう、ミライ達も好きだねぇ』
「君と意見が一致するのは嫌だけど、人類が住む惑星は地球さ」
『うんうん。そうだよねぇ。地球以外嫌だよね』
ミライとアシタはうんうんと頷き合う。
その神妙な表情が少し面白い。
『あ、それで、お金はないよ』
「じゃあ何を払うの?」
『払わなくていいよ? 強いて言うなら感謝かな?』
「え? それだけ?」
『それだけー。どう? いいでしょ、この文明。住みたくなってこない?』
「お金がないなら、何のために働くんだい?」
『うーん……感謝のため?』
「感謝じゃお腹は膨れないよ」
『でも、お腹が空くのは悲しいじゃん。感謝がお金みたいなものと思えばいいよー』
「社会主義みたいなものかな?」
『社会主義? あー、いやいや! それは失敗しやすいんだよねー』
アシタがピョンと跳ねて、悟のツルツルの頭に乗った。
『お出かけしようよ! 私達の最高の文明を見学して! そして永住して!』
「アシタ、ゴリ押しし過ぎだよ」
『もうミライ! 今ゴリ押ししなかったらいつするのよ? 次にあなた達に会えるのが何億年後になるか分からないのに!』
「まぁ、そうだけど、しつこいと嫌がられるよ?」
『そこら辺は見極めてるから大丈夫ですー』
「もう……」
見事に言い負かされるミライを微笑ましく眺めつつ、せっかくなのでアシタの言う通り、お出かけしてみることにする。
まず案内されたのは学校。これは地球の日本の風景とあまり変わりがない。ただし、建物がスケスケなので、よく見たら校内の授業風景まで確認できるのが面白い。
優希が校庭で体育の授業中の生徒に手を振ると、あちらも嬉しそうに手を振り返してきてくれた。微笑ましい。
次は市場。様々な人が野菜や果物を屋台に並べていた。お肉は一つも売っていない。ベジタリアンな人類らしい。
小さな子どもが少しでも食べたそうに食べ物を見ていると、店の人は遠慮なくそれを渡しているのが印象的だ。
――この文明では貧富の差はないのかもしれない。
なんとなくミラ島を思い出したけど、あそこはあそこでガッツリ差があったのを思い出す。クロウリーさんとか、ガッツリ富裕層だったもんね……。
市場を後にすると、商店街に行った。
様々なお店が立ち並び、皆が仲良く買い物を楽しんでいる。渡す方も受け取る方も皆幸せそうに笑っている。受け取る人は分かる。でも、渡す人まで同じように嬉しそうなのが不思議だった。
――やっぱり感謝でお腹は膨れないと思う。
しかし、どこを見ても引っかかる違和感がある。
「ねぇ、悟。この文明は家族がいないのかな?」
「そうだね……子どもといる大人が、一人のペアしか見当たらないね……」
アシタが悟の頭の上で跳ねる。
『家族はないよ。生殖が不要だからね』
「子どもはどうやって生まれるの? あなたの本体から?」
冗談交じりで言ったつもりだったのだけど、アシタは『ご名答ー』と言って笑ったので、一瞬引いてしまった。
――ミライ達とは思想がかなり違うのかも……。




