一話 親戚(1)
目が覚めると、巨大な木の下で、スキンヘッドで緑色の人類の身体をしたミライっぽい人が、凄く不機嫌そうに立っていた。
「おはよう、みんな」
――うん、やっぱり機嫌が悪い。
『やぁやぁ、こんにちは、ミライ達のご家族』
巨木が喋る。
どこに目があるとか、どこに口があるとかは分からないけど、確かに喋っている。
音として言葉が聞こえてくるのが、なんだか久しぶりで嬉しかった。
『私は『アシタ』。ミライの同期だよ』
「ミライの同期ってことは……死なない人工生命体?」
『そうそう! 不滅個体だよ!』
「ちょっと、お母さんに馴れ馴れしくない? 初対面だよ?」
ジロリと巨木を見上げるミライに、アシタはなんてことなさそうに笑う。
『いいじゃんー。ミライ達の家族なら私の家族みたいなもんでしょ?』
「約二億年ぶりに会った仲間でしかないのに?」
アシタは『些末、些末〜』と能天気そうに笑う。
――いや、二億年が些末って……規模感……。
怖くて聞けていなかったけど、ミライ達って二億歳以上という事実に辿り着き、悟とひっそりと目を合わせる。
――下手したら四億年くらい存在していそう……。
四億年かぁ……四億年? いやいや、二億でも想像できないのに、四億は果てしないわ。
――そりゃ、孤独にも思うよねぇ……。
アシタの陽気な声が響く。
『好きなだけ滞在するといいよ。むしろ永住してもいいよ!』
「追加の管理者候補が欲しいだけだろ?」
『それもあるけど、ミライ達に賛同してもらえたら嬉しいじゃん?』
ミライは「はぁ〜」と深いため息をつく。
なんとなく、以前の二人の関係性が垣間見えた気がする。
「とりあえず滞在はさせてもらうけど、移住は期待しないでね」
『うんうん! ゆっくりしていってね!』
嬉しそうに言う『アシタ』は、滞在先の候補などを教えてくれた。
滞在先のホテルに向かう道中、様々な人を見かける。
皆一様に緑色の皮膚、スキンヘッド――そして裸だ。
「お父さん、ドラゴン魂のナメクージ星人にそっくりじゃない?!」
「ね、触角がないナメクージ星人!」
「ポックルさん!」
朋里と優希が興奮しながら言う。悟の影響で、二人とも不朽の名作『ドラゴン魂』は履修済みだった。
「だよね、そっくりだ! 緑色の濃さに違いがあるけど、小さい子ほど薄いねー」
「本当だ。年寄りほど濃いのかな?」
「強いのかな?」
「いやぁ、戦闘民族じゃないと思うかな?」
「地球で神様やってるのかな?」
「それはミライ達だね」
「この星にもぷにっとボールあるのかなぁ」
「流石にそれはないって」
「えー、お姉ちゃん、夢がないなぁー」
「優希はポックルさんに会いたいだけでしょ?」
「会いたいー」
優希はソワソワと辺りを見回す。当たり前だけど、ポックルさんは存在しない。
いるのは穏やかに過ごす、この惑星の住人だ。
そして、裸。皆裸。
性差がないから皆気にしないのだろうけど、人型なのに裸というのは、やはり抵抗がある。
朋里も私と同じ気持ちなのか、耳元に口を寄せてきた。
「みんな裸で恥ずかしくないのかな……?」
「朋里は大丈夫?」
「……ちょっと、何かで隠したいかも?」
「だよねぇ……」
辺りを見回すが、やはり誰も何も隠していない。
――何かちょうどいい、隠すもの……。
肉体の性差はないとはいえ、思春期の女の子に裸はやはり辛いだろう。
「ねぇ、ミライ。この蔓、ちぎって持っていってもいいかな?」
「……どう、アシタ?」
『いいよー』
いつの間にミライの肩にいた、バッタのような生き物に驚く。ちゃっかり子機として、私達についてきたようだ。
「じゃあ、ありがたく……」
低木に雑草として生えていたっぽい葉っぱ付きの蔓を引っ張る。
「そっか、気付かなくてごめんね」
悟も意図を察したのか、一緒になって蔓を取ってくれた。ミライも「?」となりながらも手伝ってくれる。
「これでいい?」
簡易的に朋里と優希、そして私の胸とお尻の部分に蔓を巻いて隠すと、朋里は恥ずかしそうに頷いた。
「うん、お母さん、ありがとう」
「優希もついでにつけておこうね」
「? わかったー」
『身体に何か着けると、光合成の効率悪くなるよ?』
「いいの、アシタ。これは僕らの文化的な違い」
『男女があるんだねー。懐かしー』
悟も思い出したように腰周りに蔓を巻き、ミライもそれに倣った。
そうして歩くと、街の人々が不思議そうに私達を見始める。
――裸だとスルーされて、何か着けると注目される矛盾っ!
「茜、頬っぺの緑が増してるよ」
「隠した方が恥ずかしいってどういうことよ!」
『じゃあ外したら?』
「「それも嫌!」」
私と朋里の反応に、『ミライ達の人類は難しいなー』とアシタが呟いた。
――効率の問題じゃないのよ、これは!
少し離れた所から声が聞こえてくる。
「ねぇ、ツナグ、あの人たち体にツル巻いてるけど、危ない人じゃない?」
「んー、変なことしていたら、管理者に連絡しようか」
「うん!」
――どうして!!




