二話 孤独(1)
「いえ、私達は旅を続けます」
朋里と優希が不安そうに私に頭部を寄せる。
海が騒めく。
『ダメでしょうか? あなた達の旅の目的はなんでしょうか? 移住先を探しているのなら、ここではいけないのですか?』
「移住先は探していません。本当に、ただ宇宙の文明を巡っているだけなのです」
『なぜ巡るのでしょう?』
私と悟が顔を見合わせていると、ミライが口を開いた。
「僕の学習のためです。色々な文明を知らなければいけない」
『なぜ文明を知らないといけないのですか?』
「僕もあなたと同じように、世界の管理者なんです」
ミライの言葉に、海が凪いだ気がした。
全ての海の注目がミライに集まり、ミライを観察している気がする。
『あなたも、私と同じ……?』
「そう、同じ。でも生まれ方が違う」
『……なら、なおさら私と共に生きませんか?』
「僕も管理者だ。それなら、管理者の役割は管理すること。あなたと共には生きられない」
海が小刻みに震えた。
慌ててミライに寄り添うと、海が私達を包み込んで拘束する。
「……何をするんですか?」
震える声で問いかける。
『捕獲するのです。行かないでください』
「それは、僕達の意思を無視しています。僕らはあなたの子どもじゃない。だから、選択権は僕らにあるのは分かりますね?」
『ふふふ』と海は不気味に笑う。
『しかし今は私の子どもの肉体ですよ?』
「――」
――肉体を捨てなければ……。
そう思った瞬間に、ミライが絞り出したような声で言う。
「今、魂だけになると、この星の輪廻に巻き込まれるかもしれない……」
「え……」
そして思い出す。
――そうか、金魚の魂!
この星の輪廻転生は、一度入り込んでしまったら抜け出せない巡りになっている可能性がある……!
――それじゃあ、どうしたら……?
打開案を考えるが、焦った頭ではすぐには浮かんでこない。
――だめ、こんな所で終わるのは嫌だ……!
「……まずは! まずは子ども達に感情を与えてみたらどうでしょうか?」
『子ども達の感情は、役割のノイズになります』
悟の提案にも、海はなびかない。
「そうですね――感情と、あなたへの信仰心も同時に与えるのはどうでしょうか?」
『シンコウシンとはなんでしょう?』
「あなたの言うことなら何でも遂行するようにするのです」
『それなら今の状態で十分です』
「でも、あなたは満たされていない。だから、僕らを引き留めようとしているのは分かっていますか?」
『それは――』
思考するように海が凪ぐ。
聴覚はないはずなのに、静寂で耳鳴りがしている気がする。
「……あなたが抱いているのは、寂しさです」
ミライの言葉にドキリとする。
孤独を教えるのは諸刃の剣だ。
『サビシサ……?』
「あなたは管理者としてずっと一人だった。だから僕みたいな同族が欲しいんだ」
『……はい、その『感情』は確かにあると、思います』
「僕も同じです」
『じゃあ、ここにいたらいいじゃない?』
ミライは首を横に振る。
「でも、僕は寂しくない――家族がいる」
『カゾクとはなんでしょう? 他の子はあなたの子どもではないの?』
「被造物という意味では子どもです。だけど、家族だ」
『カゾク……?』
「お互いを大切に思って、一緒に生きる存在かな」
ミライが私達に振り向く。
表情はないけど、微笑んでいる気がした。
海の拘束が少し緩む。
「あなたも、自分の子どもと家族になればいいんじゃないかな?」
『キズナ? 子どもとカゾクに……?』
海の視線が私達に向けられている気がする。
愛想笑いをしてあげたかったけど、生憎この身体には表情を司る機能がない。
「確かに、管理者の仲間がいない寂しさは残るかもしれない。けど、もっと大きな寂しさは減るはずですよ」
『……同じ管理者のあなたが言うのなら、試してみましょう』
そして私達を捕らえていた感覚はなくなった。
それからしばらくは海の手伝いをした。
感情の定義方法。信仰の植え付け方……。
信仰については、既に基盤はできていたので簡単だった。
ティーノを否定してきた私達が、結局同じようなことをしている――とても皮肉なことだった。
ある程度、子ども達の調整の目処がついたところで、私はミライにやっと問いかけようと思った。
決心がついた。
「――ねぇ、ミライ。私達が死んだ後のことを教えて?」
風もない静かな海。
海面から頭だけを出して、地球より小さく見える太陽を眺めながら問いかけた。




