一話 羨望(3)
私の疑問にキノコが不思議そうに揺れる。
「どうかした?」
「――いや、私が聞いた人類の滅亡原因じゃない気がして……」
「地球の人類は何度も生まれては滅びているからね。君の知っている人類文明じゃなかったのかもしれない」
「あ――」
そうか、ミライ達は何度も人類を創造していたのだ――私達が死んだ後も……。
思わず胸が詰まった。
「今、君の情報構造体が揺らいだけど、どうしたの?」
急な指摘に、ないはずの心臓がドキリとする。
「家族に辛い思いをさせたのかと、苦しくなったんです」
「何が苦しかったの? 肉体に異常はなさそうだけど?」
「胸かなぁ……?」
胸をトントンと叩いて見せると、キノコは不思議そうにその辺を観察する。
「何もないね……」
「ないけど、そんな気がしたんです」
「うーん、やっぱり人類は面白いね」
興味深そうに私を観察するキノコをよそに、私は本当に確認したかった人類の文明識別コードを思い出す。
――ミライがエンペルクさん達に伝えていた文明識別コードは……そうか、CV-77124-03-Aなのか。
そのままアカシックレコードで検索をかける。
やはり巨大隕石の衝突が原因だったようだ。
――個人のことは記録されているのかな?
ティーノの結末を思い出して、調べたい気持ちにもなったけど、やめた。
まだ、心が受け入れる準備をしていない気がしたからだ。
代わりに私の記録を検索してみる。
――残ってるんだ。
変な声が小さく漏れた。
私はティーノを殺そうとして、ティーノの筆頭執事に返り討ちに遭って死んだのだ。
朋里と優希は、恐らくミライ達が二人を守るために心臓発作で殺したらしい。二人同時に心臓発作で死んだ事実と、ミライが発生させたという事実のみが記載されていた。
魂を守るために肉体を殺すとは、矛盾しているように思えておかしい。
「――?」
気が付けば思考に耽っていたらしく、キノコが私の顔を覗くように正面に立っていた。
「やっぱり、本来の肉体じゃないと、揺らぎは少なそうだね」
「あ――」
確かに、そうかもしれない。
思い出してみると、感情の起伏は減っている気がした。
特に負の感情にはあまり傾いていない。
――でも、ミライがストレスをかけ過ぎないように調整してくれてる可能性もあるしなぁ……。
特にティーノについては、あまり考えない思考パターンになっている気がする。死ぬ直前まで、色々あり過ぎたのに。
「あなたは、そんなに感情が欲しいんですか?」
「欲しいね」
「感情のせいで争いが起きて、殺し合いが起きても?」
「文明の発展のためには必要なものと思うけどね……」
「私達は、争いが起きなくなる方法を探してるんです」
「それならここを参考にするといいよ――ただし、文明は衰退するけどね」
「文明が衰退して悪いところが分かりません」
「文明の情報構造体が増えなくなる」
「それの何がいけないのかが、私には分からないんです」
「なるほど……価値観が全然違うね……」
キノコの言葉に私は大きく頷く。
「私達の文明は、アカシックレコードに依存してないどころか、情報構造体すらも認知していませんでした」
「それは……不便じゃないか?」
「知らないと、その不便さも知りません。だから、私達は何も不便じゃありませんでした」
――まぁ、情報構造体については、私がやっちゃったけど……。
「だから、星の情報量が多いと良いというのは、全くもって価値にならなかったのです」
「うーん……記録から予想してはいたが、いざ対面すると印象が変わるね……」
「私も宇宙は色々と違いが多過ぎて、今のところ毎回驚いています……」
今のこの身体は疲れないし、眠くもならない。
私は目の前にいるキノコと、かなり長い間語り続けた。
キノコが「着熱の時間だ」と席を外した瞬間、私はアカシックレコードに繋いであの手この手でミライを検索した。
――良かった、無事だ……。
しかも、悟も朋里も優希も一緒にいるらしい。
誰も損傷もなく、無事も確認できて非常に安心した。
――私は囮だったのかな?
囮に使ったのなら、悟が激怒しただろう――あ、やっぱり囮だったかも。アカシックレコードに悟が激怒したログがある。
どうやらミライ達は私を助けるために色々と頑張っているようだ。着々と私がいる星に向かって来ているみたい。
安堵しつつ、キノコ達の要望を思い出す。
――感情が欲しいか……。
機械的生命体も、感情の有無がひとつの基準ではあった。
感情の生まれる機械的生命体を造っていたという点では、人類は感情のない物に感情を付与することもできると考えられる。
――あ……。
機械的生命体に感情の種を埋め込むように、彼らにも感情の種を埋め込むことができないだろうか?
――彼らの要望に応えてあげたら、ミライが来た時に揉める可能性も減るかもしれない。




