一話 羨望(2)
「あなた達は、誰かに怒ったり、イライラしたり、誰かを好きになったり、嫌いになったりしないんですか……?」
「ないね――人類の記録にもよく見られる傾向だった。どんなもの?」
「どんなものって……」
説明する方法がなくて、言葉に詰まる。
感情を言葉で説明するとは、非常に難しい……ましてや、全く『在り方』が違う生命体に説明するのは困難に思えた。
「うーん……」
私が悩んで唸っていると、キノコがふわりと頭部を揺らした。
「焦らなくていいよ。時間は沢山ある。ゆっくり教えてくれたらいい」
――時間は……沢山ない方がいいなぁ……。
思わず苦笑いしながら頷く。
ミライが無事なら、いつか必ず迎えに来てくれるはずだ――無事ならだけど……。
起きる前に聞いたミライの声は、果たして私の希望なのか、実際に言ったことなのか……。
とりあえず私には危険はなさそうなので、むしろ皆の方が心配になってくる。
――こんなことになるなら、さっさとアカシックレコードの読み方をミライに聞いておけばよかった……。
「――あ」
そこまで考えて、一つ気がつく。
――えぇい! ダメで元々!
「あの、アカシックレコードの見方を教えて貰ったりはできませんか? 私、地球の記録を見たことがなくて……記録を見たら、あなた達への説明がしやすくなるかもしれない」
「君はほとんど魂だけの存在なのに、閲覧方法を知らなかったんだね」
少し驚いたようにキノコが小さな笠を広げた。
キノコが剥き出しの宇宙を見上げる。
どうやら教えてくれるようだ。
「アカシックレコード自体は視える?」
私もキノコに倣って宇宙を見上げた。霊視する時と同じように、じっと見つめていると金色の光の膜が見え始める。
「――たぶん、視えました」
「じゃあ、知りたいことを考えるんだ。そうすると、考えていた情報が流れ込んでくる。だから具体的に考えた方が情報が絞り込まれていいね」
説明を聞いて分かったのは、アカシックレコードの閲覧も霊視する時の感覚に近いことだ。
――意外と簡単かもしれない。
「……」
まずは練習で地球を……。
「……」
――えーと、地球……地球って、どう検索するんだ?
「あの……地球って、地球を考えたらいいんですか?」
「あぁ、そのまま地球と考えるだけでいいよ。文明識別CV-77124-06-Gの方が安定してるけどね」
「えーっと……もう一回いいかな?」
「文明識別? CV-77124-06-G」
「CV771……?」
「CV-77124-06-G」
「CV-77124-06-G!」
「合ってるね」
「……紙とペンが欲しい!」
「記録媒体はここにはないねぇ……」
「どうやって憶えてるんですか?」
正直、今喋ってる傍から忘れている気がしてならない……CV-77124-06-G……。
「意識して憶える必要はないね。共有した時点で君の魂に記録されるんだから、自分の記録を確認したらいいんだよ」
「え……?」
寝耳に水とはこのことである。
――そうか、私には今、脳っていうある意味制限がない……だから、自分の情報構造体にいくらでも記録ができるし、読み起こせる……。
これはかなり重要な発見だ。
「むしろ自分は、どうして君が一度で認識できないのか不思議だったよ」
「えーっと……どうやって確認したらいいんですか?」
「アカシックレコードを閲覧するのと同じ感じでいけないかな?」
「うーんと……」
自分の内側に意識を向けて探ってみる。
地球文明識別コード:CV-77124-06-G
「あ、あった……」
「うんうん」とキノコの頭が少し揺れる。
「じゃあ、できるかな?」
「やってみます……」
――文明識別コード:CV-77124-06-G の文明の結末が知りたい。
「――っ」
突如、記憶が頭の中に入ってきた。内容を絞りに絞ったので量は少なかったけど、初めての感覚に戸惑いが隠せない。
――相手の情報をマルっと受け取るのは、こんな感覚なのかもしれない……。
もしくは、パソコンから何かデータをダウンロードする時のパソコンの感覚はこんな感じなのかもしれない。
「できた?」
「――できました。ありがとうございます」
ダウンロードされた記録を読み込む。
「太陽フレアの影響で滅びたんですね……」
「そうみたいだね。それ以降、人類は生まれてない」
「ん? 太陽フレア?」
一つ違和感を覚える。
――そういえば、エンペルクさんはこう言っていなかっただろうか?
『俺の惑星は、巨大隕石衝突だな。あんたらの地球と同じだ』




