一話 在り方(5)
「ダンガルン君――君は性懲りもなく、また来たのかい?」
「しつこいよー」
「ったく、いい加減他の惑星に行けよ」
「この惑星が一番効率がいいからな。できる限りここで稼がせてもらう」
優しかった三人の塩対応を見て、ダンガルンと呼ばれるウニがあまり良い存在ではないことを察する。
ダンガルンは身体の無数の針を私達に向け、こう宣った。
「お前ら、ついてこい。俺がいい惑星に連れて行ってやろう」
「君達、行かない方がいい。異星人に売られて、家族がバラバラにされてしまうよ」
「余計なこと言うんじゃ――」
ダンガルンは話している傍から、溶けて床の染みとなって消えていった。
「うわっ!」
「ビックリしたー」
そう言いながらも娘二人は座り込んで、ダンガルンの形跡を観察する。
「ゆっくりしてもらいたかったけど、面倒な奴が来たな」
「全く、運が悪い……」
「ダンガルンも質が悪いよねぇ」
「魂の複製に関する制約を早く考えねばな」
「そうだな」
何やら三人で頷き合っている。
「あのぅ……さっきのダンガルンって人は、地球で言う奴隷商人みたいな感じですか?」
私の質問に博士は「そうだ」と頷いた。
「あやつは特異な生命体を誘拐し、色んな異星人に売り捌くことを生業としている」
「それで僕達が狙われてるってこと?」
「そうだな。最近はこの惑星を狩場にしてる。色んな異星人が来るからな」
「でもここの惑星から出ていけば、追いかけては行かないと思うよ」
「あー、効率重視ってわけね?」
「そうそうー」
……なんというか、面倒臭い宇宙人もいたものである。
まさか、宇宙版奴隷商人に出会うとは思ってもみなかった。
「でも、肉体は本来のものじゃないのに、買う人いるの?」
悟の問いかけに博士が頷く。
「おるな。この身体は死ににくい。それに、この惑星の『水』さえあれば維持できる」
「要は形状が複雑怪奇で動く生命体ならいいみたい」
「あなた達は狙われないの?」
「同胞が被害には遭ったな――でも人気はなかったようだ」
――複雑怪奇の基準って何だろう……?
私達にとっては、エンペルクさん達の方が複雑怪奇なんだけど……あ、目がないナメクジなクッソロエプロンさんは違うかな?
「俺達に比べて、あんたらは異なる部位が多いし、特殊な形状が多い――売りに出されたら人気になるんじゃないか?」
「えぇ……」
「地球文明が存続していたら、地球が狙われてたかもしれないな」
「まさか……」
私が現実逃避していると、悟が不思議そうに口を開いた。
「でも大気の酸素は異星人には猛毒って聞いたけど、どうなの?」
「……今の肉体でも即死はしないが、長くは生きられないと推測する」
「やっぱり酸化するからか……」
「そうだな。金属系の肉体には致命的な環境だ」
「じゃあ磁生体も厳しそうだね……」
「――還磁に行ったことがあるのかい?」
博士がまさか還磁を知っているとは思わなくて驚く。
「ご存知なんですか?」
「知っているとも。あそこは長期文明として目立っているからね」
「魂のみで行ったことはあるんですか?」
「ハハハッ! それはないよ。私はまだ基本的にここを拠点にして、異星に出向いてないからね――君達は行ったのかい?」
「行ったよ! 八面体? の人達がぴょんぴょんしてて面白かった!」
「ほほぅ――実際に八面体の磁生体を見たのか……」
「宇宙旅行としては一箇所目でした。ここは二箇所目です」
「それはそれは、光栄だな……」
三人が嬉しそうに揺れるので、なんだか私達も嬉しい気持ちになる。
「あ……いかんいかん! あ奴が戻って来るまでに、君達には逃げてもらわなくては……!」
「そんなにすぐ戻ってくるんですか?」
「そうだな、早ければ――!」
「あ!」
突如頭上から現れた銀色の針が三人の身体を貫通する。
「――ナメクジさん、ニョロニョロさん達……!」
三匹は声を発する暇もなく、代わりに優希の悲痛な声と共に、三匹はドロリと溶けて床に消えた。
そして、静かに頭上から銀色のウニが現れる。
「なんつーか、なんやかんやのんびりしてるから、やりやすいんだよな、ココ……長生きしすぎで時間感覚狂ってるんだよな」
そう言ってウニ――ダンガルンは私達に棘を向ける。
「皆、集まって――」
ミライの小さな声に、私達は反射的に身を寄せ合う。
「おい、何をす――」
「格納」
その言葉と共に、世界が暗転した。




