引きこもりの日
週末のバザールは相変わらず盛況だった。バザールが始まってすぐに俺のテントの前には女性プレイヤーを中心に焼き物を買ってくれる列ができた。2種類の従魔達の置物が飛ぶ様に売れていくんだよ。
「ガンガン買うと主がウハウハになってリンネは嬉しいのです」
「リンネちゃんが嬉しくなるのなら沢山買わないとね」
「はいなのです。毎度あり、なのです」
リンネがこんな調子でセールストークをするもんだから次から次から売れていく。もちろんタロウやクルミも人気があって皆スクショを撮るんだけど3体は嫌な顔せずにきちんと対応してくれるんだよな。
かなりの量を作ったつもりだったんだけど、それでも閉店前に全部売れてしまった。嬉しいやら、買えなかった人ごめんなさいやら。複雑な気分だよ。
「家に帰るよ」
店を閉めた俺が言うとテントの後ろで遊んでいた3体が寄ってきた。
「はいなのです。今日もハッピーな1日だったのです」
「ガウガウ」
タロウも尻尾を振ってるし、その背中ではクルミが何度もジャンプしている。確かに完売は嬉しいけどね。でも買えない人がいたからな。
俺たちは開拓者の街の中を通って自宅に戻ってきた。自宅に戻るとタロウとリンネは精霊の木の根元と枝でリラックスをし、クルミはすぐに船に乗って船首から川を泳いでいる魚達を見ている。そしてランとリーファが俺の両肩に乗ってきた。
ログアウトまでこうやってクールダウンしているこの時間が好きなんだよな。縁側に座ってぼーっと庭で遊んでいる従魔達を見ていると癒される。
精霊の木の枝で休んでいたリンネが木から降りるとトコトコとこっちにやってきて縁側に上がると座っている俺の膝の上に乗ってきた。
「主は今日は焼き物は作らないのです?」
顔を見上げて聞いてくる。
「うん。今日はもういいかな。明日からまた頑張るよ」
「おやすみは必要なのです」
「その通りだ」
膝の上に座ったリンネを撫でてやる。9本の尻尾を規則的に動かしているからご機嫌の様だ。こうしてマイペースでゲームをするのが俺の夢だったんだよな。時間に追われずにやりたいことをして過ごす。ストレスフリーだよ。
しばらくこうしてのんびりとしてからログアウトをした。
次の日、この日は1日中自宅にいることにする。
霧の街から伸びている道を探索している3つのパーティの中では、今の所北ルートの探索、俺たちの探索が一番進んでいるみたいだ。もちろんこれは従魔達によるところが大きいんだけど。慌てて先に進む必要もないだろうし、今日は他の2パーティと足並みを揃えるための時間調整日にすることにした。こういう時にしっかりと焼き物を作り溜めしておかないと、また売り切れになるかもしれない。
畑の見回りと納品が終わって自宅に戻ってきた時に俺は5体の従魔達を集めた。
「今日は外に出ないぞ。家の中で焼き物を作る。だからお前達も好きにしていいぞ」
俺が家にいるとわかってランとリーファが歓喜の舞をしてくれた。いつもお留守番だからな。自分でも申し訳ないと思っているんだよ。
クルミはタロウの上でジャンプした。これは分かったという表現だな。
「ガウガウ」
タロウが寄ってきた。撫でているとリンネが言った。
「タロウは今日はずっと主のそばにいると言っているのです」
「そうか」
戦闘中は勇敢なタロウだけど、普段は人懐っこくて甘えん坊なんだよな。
「リンネは今日はお家でのんびりするのです。休養日なのです」
「うん、ゆっくり休んでいいぞ」
俺が工房に向かうと後ろからゾロゾロと従魔達が付いてくる。そしていつもの場所で腰を下ろす従魔達。そうなるとは思ってたけどね
昼過ぎから夕方まで焼き物作りをしたおかげで相当数の焼き物ができた。明日からバザールまでにいつものペースで作れば今度は売り切れにならないだろう。と思う。
夕方に工房から出てきて庭で遊んでいる従魔達を見ていると庭にいつもの4人が入ってきた。マリアは早速タロウを撫でているよ。
「今日はずっと家にこもっていたのかい?」
縁側に座ったトミーが言った。
「そうそう。バザール用の焼き物をせっせと作ってたよ。そっちはどうだった?」
「こっちにも道の途中に小屋があったよ。タクが見つけた小屋と同じ転送盤だけがある小屋だ」
スタンリーが言うとトミーも俺たちにもあったと言う。彼らはその小屋の中にある転送盤を登録して戻ってきたそうだ。3つの道の途中には全て転送盤が設置されている小屋があった。周辺の魔獣のレベルは178でこれは3カ所とも同じだ。名称もジャングルの西の小屋、東の小屋だったらしい。
「つまりどの道を進んでも小屋があったということはゴールはまだ先だってことか」
俺が言うとそうなるなという4人。
「霧の街から道が3本伸びている。その道は長くて途中に転送盤がある小屋がある。そう考えると、どの道を進んでもその先には何かがあるってことにならない?ハズレルートがないんじゃないかしら」
そう言ったのまマリアだ。ハズレルートならもっと短いし、転送盤を置く必要もないんじゃかということか。それに対してはトミーがルートはハズレだけど、レベル上げ用として使ってくれという意図はないか?と言った。
俺の家で皆がいろんな意見を言い合って相談するのはいつもの事だ。
俺たちが縁側に座って話をしていると、タロウがのっそりと庭を歩いて近づいてくると、縁側に上がって俺の隣でゴロンと横になった。すると肩に止まっていたランとリーファがタロウの背中に並んで腰掛ける。
次にリンネが俺の膝の上に乗った。
クルミは船から川を見ていたが、タロウとリンネが俺のそばに行ったのを見ると慌てて船から降りて走ってきてジャンプ一番俺の頭の上に飛び乗ってきた。置いてけぼりにされたと思ったのかな。
「従魔達は皆タクが好きなのね」
「はいなのです。主が一番なのです」
クラリアにきちんと返事をするリンネ。うん、えらいぞ。
それで道の話だ。ハズレがないと仮定したらジャングルの中の3本の土の道の先には何があるんだろうという話になる。間違いなく3つの道のどれかは次の街につながっているだろうというのは俺を入れた5人の共通認識だ。これは流石に間違ってないと思うよ。
「他の2つの道の先には何があるんでしょうね」
「山の方に続いていてそこが印章NM戦だったり」
「それはあり得るよな」
確かに山に続いているとしたら印章NM戦のフィールドがあるかもしれない。ただもう1本の道の先にありそうなものの予測がつかないよ。
小屋があって転送盤があるくらいだからハズレルートじゃないだろうとは思っているけどね。色々想像しながら話をするのは楽しいよ。
「この3本の道のどれかが街に繋がっているとしてさ、次の街には強化屋はあるだろうな」
トミーが言っている。このエリアに来ても神魂石がドロップしていることから見ると強化石の使い道があるということだろう。
「新しい武器や装備を出さずにこれからは強化で武器を強くしていくのかしら」
トミーに答える様にマリアが言った。
「どうかな。運営のことだ。神魂石を別の用途に使える様にすることだってあるぞ」
「前の荒野のエリアではプレイヤーは相当数の神魂石とベニーを使っているし。このエリアでも同じことをさせて時間をかけさせることは十分に考えらるわよね」
スタンリーとクラリアが言った。
このゲームはただレベルだけをあげれば良いってものじゃないと言うのは皆知ってるよ。名声をあげないと負荷が増えたり、強化しないと前に進めなかったりといった実績がある。
「のんびりやろうよ」
「主の言うとおりなのです。やろうよ、なのです」
「ガウ」




