洞窟の戦い その2
戦闘開始から2時間が過ぎた時、突然森から襲ってきていた魔獣達の攻撃が止まった。静かになった森。相変わらず深い霧で奥は見えない。
「終わったのか?」
誰かが言った。その直後にタロウが吠えて腰を下ろして低く吠える。リンネとクルミも同じ姿勢になった。
「強い敵が近づいてくるのです」
そう言ったリンネは腰を下ろして前を睨みつけたままだ。
「何体だ?」
「1体だけなのです。主、本気でやるのです」
俺とリンネのやりとりを聞いていた他のメンバー。そのやりとりで何も言わなくても装備を確認し、薬品を飲む。
リックとジャックス、それとスタンリーと俺が1列目に立った。分身は4体出ている。リキャストも問題ない。
「リンネ、そいつ以外に敵はいるか?」
「いないのです」
「ボス格の魔獣だろう。きっとレベルも高いぞ」
スタンリーが言って全員が気を引き締めて待ち受ける。
全員が待ち構えていると霧に包まれている右側の森、霧の中から大きなゴリラが姿を現した。でかいぞ、体長は2メートル以上ある、そして腕は4本だ。
(あいつがボスか)
(ジャイアントジャングルモンキー、NMです)
他のメンバーもAIに聞いたのだろう。NMだぞという声がする。そいつは道に散らばっている撒菱を足で左右に蹴飛ばしながら近づいてくる。
数メートルまでの距離に近づくと2本の腕で胸を叩いてきた。威嚇行為だ。ジャックスとリックが一歩前に出た。胸を叩き終わるとジャンプして2人の前に移動するや否や4本の腕を突き出してきた。それを盾で必死で食い止める2人。
「戦闘開始だ。周囲に敵はいないぞ」
スタンリーの言葉で俺たちはボスNMの左右に広がると攻撃を開始する。
「氷」
マリアから声が飛んだ。こいつも氷が弱点だ。
何も言わなくてもリンネが氷の精霊魔法を撃つ。俺が横から見ていても威力がでかい。途中でレベルアップしたのでまた一段と威力が増しているな。
NMの背後に立っていたクラリアが不意打ちを入れた。強烈な不意打ちでボスの身体が一瞬ぐらっとするがそれでもパラディンへの攻撃を止めない。
「30分経過」
クラリアの声がした。2時間の連続戦闘の後なのでまだ30分しか経っていないのかと感じるくらいに疲労感がある。でもここで止める訳にはいかない。
パラディンは2人1組でスムーズに交代して盾役を勤めている。ヘイトを抜きかたや、次のパラディンのヘイトの稼ぎ方が上手いのでタゲが移動しない。さすがだよ。クルミの魔法壁とスロウの魔法もしっかりと効いている様だ。
俺たちは地道に攻撃を繰り返して、NMの体力を削っていたが、突然NMの挙動が変わった。4本の腕を前と左右に突き出してパンチを繰り出し始めた。
「狂騒状態かも」
その場で足踏みをしながら4本の腕を前と左右に突き出しながら身体を回転させる。近接攻撃をしていた前衛部隊が背後に飛んだ。魔法は命中するが打ち過ぎるとヘイトを稼いでタゲを取るかもしれない。パラディンと違って魔法使いはあのNMのパンチだと2発喰らったら戦闘不能になるだろう。
パラディンだけが挑発のスキルを発動し、パンチを盾で受け止めているが、それ以外に効果的な攻撃ができない。
そう思っていたとき、タロウがボスNMの背後からそのお尻に噛みついた。ゴリラのNMは振り払おうと4本の手を振り回すがお尻までは届かない。タロウも噛みついたお尻を離すまいと唸り声を上げながら踏ん張っている。
「一気にやろう」
俺が言うと全員がヘイトを無視してボスNMに攻撃をする。ボスは4本の腕でなんとかタロウを引き剥がそうとするが、タロウがうまく身体を使って掴ませない。その間に剣と魔法がボスNMの四方八方から襲いかかった。
総攻撃を続けること5分ちょっと、大きなゴリラが地面に倒れると光の粒になって消えた。代わりにそこに大きな宝箱が現れた。代表してクラリアが宝箱に端末をかざした。
「よっしゃー」
「勝ったぞ」
俺たちが勝鬨を上げた。
タロウがそばにやってきて身体を押し付けてきた。戦闘中とは違って甘えん坊で人懐っこいタロウだよ。俺はしゃがみ込むと頑張ったなと両手でタロウの顔をわしゃわしゃと撫で回してやる。尻尾をブンブン振って大喜びだ。
その後でリンネとクルミも撫でてあげたよ。3体は皆頑張っていたからね。
霧の街に戻ってギルドのホールで打ち合わせをすることになり、皆で霧の中に伸びている土の道を歩く。
「リンネ、道の両側に気配はあるか?」
「はいなのです。こちらをじっと見ているのです」
「ボスのリキャストがないってことなのかな」
「それかボスとは関係なくこの両側にいる魔獣の挙動は変わらないとか」
そんな話をしながら橋を越えて霧の街に戻った俺たちはそのままプレイヤーズギルドに入った。他にプレイヤーがいないから貸切だよ。
ホールにあるテーブルに適当に座る俺たち。俺がテーブルに座ると横の床の上にタロウが腰を下ろし、今度はクルミが頭に乗った。リンネは俺の膝の上だ。
「AIに聞いたら今のNM戦の状況がわかったわ」
そう言ったクラリア。戦闘前には分からなかった情報が戦闘に勝利したことで開示されたみたいだ。彼女によれば25名マックスで時間制限はなし。攻撃してくる敵を全て倒すと勝利となる。
「つまりエリアボス戦と同じ条件だということだな」
「そうなるわね。ただ道の両側にいる魔獣との戦闘はあるけどボスは毎回登場するとは限らないみたいよ」
その話を聞いて皆が自分のAIに聞いて確認する。もちろん俺もミントに聞いたよ。
(はい。ボスの登場はランダムとなります)
(宝箱はボスを倒したからだよね)
(その通りです。ボスが登場しない戦闘では勝利しても宝箱は現れません)
いやらしいな。つまり2時間ほど戦闘して終わりということもあり得るということか。今回は1回目だったからボスが出てきたんだろうな。
次に戦利品だ。まず参加したプレイヤー全員に50,000ベニーが入っていた。それとは別に神魂石と印章がいくつか入っている。経験値も入っているだろう。
「宝箱の中身を出すわね」
クラリアが言ってテーブルの上に戦利品を出した。
・ジャングルのメガネx2(霧の中で視界がよくなる。全ジョブ。強化不可)
・音無しの靴x2(移動しても足音がしない。全ジョブ。強化不可)
・フォグの魔法スクロールx2(敵の周辺に霧を発生させて視界を悪くさせる。魔法使い)
・密林のバンダナx2(ステータスアップ。全ジョブ。強化可能)
・神魂石(6種類)x1
・透明な神魂石x2個
結構出たな。密林のバンダナをAIのミントに聞いたら雪原のバンダナよりはステータスがアップするが森の精霊のバンダナほどじゃないそうだ。そしてフォグの魔法だ。魔法使いにとっては最初から持っている魔法以外に初めての魔法だ。これは欲しいだろう。
俺が欲しいのは透明な神魂石かな。そう思って見ているとクラリアが戦利品から顔を上げた。
「22名で参加して戦利品が5種類10個と神魂石。普通のNM戦で出る数よりも少し少ないかもね」
25名で10個のドロップになる。
それでこれをどうやって分配するか。
相談した結果、メンバーが希望のアイテムを選んで、希望者の中で抽選をすることになった。ただ抽選に負けたから他のアイテムへ変更するのは無し。神魂石は6個を1セットにする。
「タクは術があるから靴はいらないんじゃないか」
トミーが俺に顔を向けた。
「いらないね。物見の術がある。メガネもいらないな。従魔達がいるからね」
「そうなると」
「うん、俺は透明な神魂石を希望するよ」
アイテムごとの希望者はこうなった。
・メガネ 3名
・靴 2名
・魔法 5名
・バンダナ 6名
・透明な神魂石 5名
・神魂石(6種)1名
意外と靴の人気がないんだな。聞いたら遊びアイテムの要素が強いと言うことみたいだよ。大地の靴を履いている方がずっと戦力になる。魔法使いの5名は全員がフォグの魔法希望だ。そりゃそうなるよな。
この時点で神魂石x6個の行き先が決まった。スタンリーだけが希望者だったんだよな。彼は黒魂石を作ることを諦めていないので神魂石はできるだけ欲しいそうだ。
「もちろんこの後の強化でも使える。石は沢山あるに越したことはないよ」
なるほど。
他のアイテムは皆で抽選をする。大抽選会だよ。
「主、欲しいものをゲットするのです」
「ガウガウ」
リンネとタロウが言い、クルミもジャンプして頑張れと言ってくるけどこれは公平な抽選だからな。当たるかもしれないし外れるかもしれない。
希望者同士で公平な抽選が行われ、アイテムの分配先が決まった。俺はなんとか透明な神魂石をゲットできたよ。
「やっぱり主はやる時はやるのです」
「ガウガウ」
俺が当たりくじを引いた時はタロウもリンネもクルミも皆大喜びしてくれた。フォグの魔法はその場にいた魔法使い5名で抽選をし、攻略クランのアップルと情報クランのケイトが手に入れた。
手に入れられなかった3人がまたやろうと言っている。そりゃそうだよ。新しいフォグの魔法狙いで挑戦する価値はある。




