セーブポイント
転送した先は洞窟の中だった。
出口に向かって歩き出すと数メートル先の地面が光っているのが目に入ってきた。
なんだあれ?
先頭を歩いていたスタンリー、続いてクラリアがしゃがみ込むと地面の光に手を近づけると立ち上がった。
「これはセーブポイントみたい」
「セーブポイント?」
「このエリアで戦闘不能になった場合、最後のログアウト場所の他にこのセーブポイントでも復活できるそうだ。1時間の衰弱時間はあるがな」
クラリアに続いてスタンリーが話をした。言っていることはわかるがなんでここにあるんだろう?街が遠いからなのかな。
とりあえず登録した方がいいだろうと、順番に全員がセーブポイントに触れる。俺も触れると脳内に声が聞こえた。
『セーブポイントとして記録しますか?』
当然『はい』をタップした。
(ミント、このセーブポイントって初めて出てきたんだけど、どんな意味があるの?)
(はい。セーブポイントは蘇生する場所の1つになります。戦闘不能になった場合、エリア内にセーブポイントがあればそこで蘇生ができます。もちろん最後にログアウトした場所で蘇生することもできます)
スタンリーが言っていた通りだ。同じエリア内で蘇生できるってことか。選択できるんだな。皆もAIに確認していた。
メンバー全員が登録を済ませるとそのまま洞窟の出口に向かう。洞窟の出口は幅が5メートル、高さも4メートルほどあり、プレイヤー5、6人なら余裕で並んで通れる幅がある。出口で足を止めた俺たちはその場で前に広がっている景色を見る。
「ジャングルか」
「霧がかかっているので不気味に見えるな」
洞窟から出た先は霧がかかった薄暗くて深い森だった。昼間なのか夕方なのかもわからない。その出口から森の奥に土の道が蛇行して伸びているが道の両側ぎりぎりまで木や草が生えている。その木もまっすぐじゃない。曲がった木や倒れている木もある。上では道の左右の木の枝と草が絡み合っている。
「注意しながら進もうか。何かがいる可能性が高い」
「ガウ」
スタンリーが言った直後、洞窟の出口から前を見ていたタロウが吠えた。
「道の両側に何かがいるのです。ただ今は襲ってくる気配はないのです。タロウとリンネとクルミにはわかるのです」
「どういう事だ?」
リンネの言葉を聞いたトミーが言った。皆俺の頭の上を見ている。俺は頭の上に乗っているリンネを抱き抱えた。抱かれて尻尾をブンブン振ってるよ。
「つまりだ、道の両側には何かがいるが、道を歩いている分には襲ってくる気配がない。そういうことか?」
「はいなのです。森の中のあちこちからこちらを見ているだけなのです」
「それはそれで気持ち悪いな」
「リンネ、もし俺たちが道から外れて森の中に入ったらどうなる?」
「たくさんの敵が襲ってくるのです。でも主なら勝てるのです」
そこまで話をした俺は後ろを振り返った。リンネは俺なら勝てると言ってるがそれは買いかぶりだ。新エリアだぞ。敵のレベルは間違いなく上がっている。そう簡単じゃないだろう。
「リンネはこう言っているがどうする?」
「つまりここで戦闘になって俺たちが全滅したらあのセーブポイントで復活しろと言うことだ。もう一度エリアボス戦をやらないで済むための措置だろう」
「逆に言うと、25名でも負ける可能性がある戦闘になるということだよな」
スタンリーとトミーが言っている。トミーの言う通りで25名で必ず勝てるとは限らないのでセーブポイントを用意していると考えた方がいい。
「タロウ、どれくらいの数の敵がいるんだ?」
「ガウガウ」
「1体が攻撃すると、周りにいる沢山の森の魔獣がやってくるのです。タロウもリンネも数えられないくらい沢山なのです」
「そりゃ大変だ」
「なんか薄暗い場所だと思ったらそんなギミックがあるとはね」
「普通に道を歩く分には問題ないってことだ。好奇心が過ぎると戦闘になる」
「敵のレベルも分からない。とりあえず道を進んでみないか。まずは新しい街に行って、そこで転送盤を記録して情報を集める。そして落ち着いたところで一度ここで戦闘をしてみる。どうだ?」
トミーが言った。なるほど。まずは街に行ってから必要があればここに戻ってくるってことか。皆トミーの意見に賛成だ。俺も賛成だよ。
道から外れずに前に進むことになった。先頭は俺たちだ。俺の横にタロウが歩き、リンネは頭の上、クルミはタロウの背中の上に乗った。
「行こうか」
スタンリーの言葉で薄暗い森の中を進み出した俺たち。霧か靄がかかっていて視界が悪い。道も土の道でところどころに水溜りができている。
「薄気味悪い場所ね」
マリアが言っている。
森を抜けたところに街があると思って薄暗い森の中を20分ほど歩くと、幅が3メートル程の小川にかかっている木の橋があった。その橋を渡った後で頭の上に乗っているリンネが言った。
「敵の気配が消えたのです。川のこちら側には森の中から主を見ている魔獣はいないのです」
リンネの言葉は皆に聞こえている。
「つまり川の向こう側とこちら側で違うという事だな」
「はいなのです。こちら側はいつもの森と変わらないのです」
霧がかかっていて視界は悪いがそれは今までもあった。つまり森の中に入ってもすぐに襲って来ないということだ。
「川が境界線になっているのかな」
「そうかも。川に沿って安全なエリアの地図を作成する必要があるわね」
情報クランのメンバーがそんな話をしている。
敵が襲ってこなくなったと言っているが森の雰囲気は洞窟を出たところの場所と変わらない。相変わらず深い森だ。
橋を渡ってさらに30分ほど歩くと、土の道の先に木で作られた門が見えてきた。森の中を開拓した様に木の柵で周囲を覆っている。
門を潜って街の中に入ると霧は晴れて広い街が現れた。空を見ると日が差している。
「こんにちは」
街に入るとクラリアが代表して聞く。
「おや、プレイヤーさん達か。霧の街にようこそ」
「ここは霧の街というんですね」
「そうだよ。あんた達、南の森から来たんだろ?この街の周囲はどこもかしこも霧だらけ、霧が晴れることはないんだ。この街の中だけは空を隠している木がないだろう?だから霧が出ないんだよ」
その後他のNPCに聞いてもう少し詳しい事情がわかった。このエリアの木々は高くて葉が多いので地上に光が届かないので森は常に薄暗く、湿気もあるので霧が発生しやすくなっているらしい。森に住んでいる魔獣については詳しくは教えてくれないのでこれは自分たちで検証する必要がある。
俺たちはそのままギルドに顔を出して転送盤を記録した。これで安心だ。
「コテージを借りることができるみたい」
ギルドのカウンターから戻ってきたクラリアが言った。まずはコテージを借りてそこで一旦解散ということになる。
コテージは西門の近くにあった。この霧の街には東西南北に門がある。
いつも通り大きな2つのコテージの近くの小さなコテージを借りた俺。従魔達は早速コテージエリアで遊び出したよ。
住居を押さえた俺たちはコテージエリアの広場に集まった。
「無事にエリアボスも倒して新しいエリアにやってきた。とりあえず周辺を探索してから、さっきの洞窟の出口周辺で戦闘をするかどうか考えようか」
それまでは各自で自由行動だ。
「それにしてもボス戦はまたタクの従魔達が大活躍だったな」
ダイゴが言うと皆助かったよと言っている。
「クルミちゃんのスロウと魔法壁、リンネちゃんの底なしの魔力と強い魔法、そしてタロウちゃんの噛みつき。本当に優秀よね」
「ガウガウ」
「クルミもタロウもリンネも主をお守りするのが仕事なのです。なので主の敵はコテンパンにやっつけてやるのです」
「ここまで従魔が優秀だと助かるよな」
トミーが俺を見て言った。
「いや本当にその通りでね。従魔達にいつも助けられているよ」
そう言ってそばにいる3体の従魔をしっかりと撫でてあげた。皆耳を後ろに垂らせ、尻尾をブンブンと振って大喜びしてくれたよ。




