クチコミ
他のメンバーのレベルが170に上がるまでの間、俺は工房での焼き物を作る時間を増やしている。今は2種類のデザインの従魔の焼き物をつくるので単純に倍の時間がかかる。
3日間の多くの時間を工房で焼き物作りに集中した結果、結構な数の従魔達の置物、焼き物を作ることができた。
「主が大金持ちになるのが確定したのです」
大量の焼き物を見たリンネが言った。タロウやクルミ、それにランとリーファもそれを見て大喜びしているよ。まだ売れてないんだけどこのノリだよ。
「お金は沢山あっても困らないからな。沢山売れるといいな」
「間違いなく売れるのです。主の従魔達が皆太鼓判を押すのです」
「そうか。ありがとう」
リンネの言葉は嘘じゃなかった。週末のバザールはとんでもない人が集まってきた。俺は新しいデザインに変更したことを誰にも言わなかったので、最初はその前の戦闘中のポーズを取っている従魔の置物を買いにきたプレイヤーが、テーブルにある新しいデザインのを見つけると2つ買い、他のプレイヤーにまた新しいデザインのが売ってると言ったらしく、開店して1時間後からテントの前には長蛇の列ができた。8割くらいが女性のプレイヤーだよ。うちの従魔達は女性に人気があるからな。
列の中には知り合いもいる。情報クランや攻略クランの女性メンバー達は「可愛いわね」とか言いながら2種類の従魔の置物を買ってくれる。
「バザール会場で評判になってるわよ。タクがまた新しいデザインの置物を売り出したって」
たった今2種類の置物を買ったクラリアが言った。情報クランのオフィスには俺が作った歴代の従魔の置物が置かれている。ちなみに攻略クランのオフィスもそうなっているらしい。俺がたまに顔を出す会議室ではなく、応接室に陳列してあるそうだ。
その後にマリアが買いにきてタロウを撫で回していったりとひっきりなしにお客さんがやってきては焼き物を買ってくれる。
相当数を用意したんだけど5時前には完売となった。クチコミ恐るべし。
「ウハウハで笑いが止まらないのです」
何も無くなったテーブルを見てリンネが言った。
「ガウガウ」
タロウとクルミも大喜びしているよ。それはいいんだけど、買えなかった人がいたからまた置物を焼かないと。
店じまいをして自宅に戻った俺は再び工房で焼き物を作る。少しでも作っておかないと。
「主のお友達がやってきたのです」
焼き上がった従魔達の置物を窯の隣のテーブルの上に並べているとリンネが言った。タロウも尻尾を振っている。
工房から出るとスタンリーとマリアが入ってきたところだった。マリアはタロウに駆け寄るとその場でしゃがみ込んで両手でタロウを撫で回す。
「バザールで窯業エリアに顔を出したらタクのテントがもうなかったのでね。売り切れて家に戻っただろうと思ってさ」
スタンリーが縁側に座るとしばらくしてマリアも座った。
お茶と果物を彼らの前に置いて俺も縁側に腰を下ろした。
タロウは縁側で俺の隣に座り、その背中にランとリーファが座る。クルミは俺の頭の上、リンネは膝の上だ。
「新しいデザインの焼き物は2つとも大人気よ。戦闘中のポーズもいいし、タロウちゃんの背中に乗っている4体の従魔も可愛いって」
「口コミって恐ろしいもんだと痛感したよ。最初は少なかったのが途中から急に人が集まってきたよ」
「女性プレイヤーを中心に情報があっという間に拡散されたのね」
「そうみたいだ」
マリアと話をしているのを聞いていたスタンリー。
「これで荒野のエリアで使ったベニーをかなり回収できたんじゃないか?」
「まあ、それなりに」
俺が言うと膝の上のリンネがウハウハなのです。なんて言ってるよ。
情報クランも攻略クランもバザールのある日は活動を休みにすることが多い。ログインしてメンバーのテントを見て回ったりしているそうだ。
「ところで、エリアボス戦だけど、まだ確定ではないが来週の後半辺りになりそうだよ。情報クランもそのくらいになりそうだと連絡が来ているんだ」
「それで、全員のレベルが170になって、準備ができた時点でここで打ち合わせをしたいと思っているんだけどいいかしら?」
「問題ないのです。主のお家で作戦会議をやるのです」
俺が言う前に膝の上に乗っているリンネが言ったよ。もちろん俺も問題ない。
「リンネが言った通りでね。ここで打ち合わせをしよう」
「ありがとう。ここは打ち合わせに本当にいい場所なんだよな」
「そうそう。声は外に漏れないし、広いし、タロウちゃんはいるし」
マリアにとっては最後のタロウがいるというのが大事みたいだよ。
別に秘密の打ち合わせをする訳でもないけど、情報クランや攻略クランのオフィスは普段から人の出入りが多いのと、幹部連中はオフィスにいると他のメンバーから呼び出されたり、相談を持ちかけられることがあるそうだ。
クランとなるとパーティとしての活動以外にやることがある。聞いている限り攻略クランも情報クランもメンバー同士はうまくいっているので人間関係のトラブルはないそうだ。それが一番だよ。
俺は以前のゲームで人間関係というかクランのルールの厳しさに嫌気をさしてそのゲームを辞めたという経緯があるから、PWLではソロでやっている。ソロだと本当に自由気ままにできるんだよな。おまけに能力の高い従魔達にも恵まれている。
「こっちの準備ができたら連絡する」
そう言って2人が帰っていった。
俺はレベル170、このエリアのマックスになっていて、強化も済んでいる。なので彼らの準備が整うまでの間は丸1日を工房や畑仕事とずっと自宅で過ごし、次の日は午後から荒野のエリアで身体を動かすことにした。ずっと自宅にいるとタロウやリンネ、クルミがかわいそうだからね。
彼らは俺が言うと分かったと言ってくれるが、本当は戦闘大好きなのは知っている。
この日も午後になってオアシスの街から北にあるセーフゾーンに飛んで周辺の熊の魔獣を相手にすると嬉々としてやっつけるんだよ。相手が172とか関係なく見つけた魔獣に片っ端から喧嘩をうる感じだ。
「ガウ!」
「痛いのを食うのです!」
こんな調子でガンガン敵を倒してくれる。経験値は増えないけど神魂石と印章が入ってくるのでこっちも問題ない。
クルミもそうだけどタロウとリンネも170になってまた一段と強くなってるよ。172の敵の討伐時間が以前よりもずっと短い。これならエリアボス戦でも貢献してくれそうだ。クルミの魔法ももちろん大きな戦力になる。1%アップは長期戦になると大きく影響してくるからね。
戦闘が終わるとオアシスの街に戻って今度は釣りをする。皆釣りを見るのが大好きだ。街の近くを流れている河辺に立って釣りを始めると5分に1匹は魚を釣り上げることができる。その度にみな大喜びしているよ。
釣り上げると水槽に入れるんだけど、クルミが食い入る様に中をみるんだよな。じっと泳いでいる魚を見ている。
「クルミ。楽しいかい?」
そう聞くとその場で綺麗なバク転を決めた。うん、楽しんでいるのならなによりだ。
この日は10匹程釣ったところで釣りをやめて、そのまま自宅に戻って吊り上げた魚を自宅の川に放流した。ランとリーファは新しい魚がやってきたので船の上からじっと見ている。お魚大好きなクルミも妖精達と一緒になって川の中を覗き込んでいた。
「主の川がお魚さんで賑やかになったのです」
「皆喜んでくれているみたいでよかったよ」
「ガウガウ」
「タロウは主は釣りの名人だと言っているのです。リンネも同じなのです」
「ありがとう。また釣りに行こうな」
そう言うと庭の従魔達が皆尻尾を振ったりサムズアップしてくれたよ。




