宝探しとバザール
ウエルカムキャンペーンが始まった。
そうは言っても俺はいつもと同じ始まりだよ。ログインすると畑の見回り。それから工房。午前中はこれだ。
畑仕事の最後のビニールハウスの水やりが終わって、5体の従魔達が遊んでいるのを入り口にある椅子に座って見ている俺。高設栽培の下を走り回っていた彼らはしばらくすると満足したのか集まってきた。
「いっぱい遊んだかな?」
「はいなのです」
他の従魔達も尻尾を振ったりサムズアップしている。
ビニールハウスを出ると縁側の前に集まった。
「これから街の外にでるよ。ランとリーファはお留守番をよろしくね」
妖精達が任せろとサムズアップしたのを見てから俺たちはオアシスの街に飛んだ。
キャンペーンの期間中は経験値がアップする。オアシスの街の中には数組のプレイヤー達がいた。彼らの視線を浴びながら街の外に出るとタロウに乗って北に走る。
北のセーフゾーンからNMがいるメサを抜けた北側が今の狩場だ。ワイルドベアのレベルは163から164。今の俺たちのレベルの162だと問題なく倒せる。倒しながら荒野を北に進んでいく。相変わらずあちこちに大小のメサがあるのでその周りをチェックしながらなので北上するスピードは遅い。それでも進んでいくと魔獣のレベルが165に上がった。
従魔達は165のワイルドベアが相手でも全く問題ないんだよな。皆嬉々として魔獣を倒しているよ。おかげで結構な神魂石や印章が手に入った。経験値も入っているはずなので次の時にはレベルアップするかもしれない。
自宅に戻ってきたがログアウトはまだ早い。
「宝探しに行くぞ」
その言葉を聞いた3体の従魔達が尻尾をブンブン振ってくる。
「主、宝探しでウハウハになるのです」
「いいのが見つかるといいな」
始まりの街に飛んでギルドに入ると、そこには多くのプレイヤーがいた。もちろん新しくやってきたプレイヤーが多いが、それ以外にも宝探し目当てのプレイヤーも多い。
「リンネちゃんとタロウちゃんよ」「クルミちゃんもいるわ」
そんな声が聞こえる中、「あれがタロウか」とか「本物のリンネちゃんよ」とか言う声もしている。彼らは新しくPWLに来たプレイヤーだろうな。
そんなことを考えていると、「彼がフェンリル忍者のタクだ」「とんでもないPSだって話だぞ」という声も聞こえてきた。ん?俺の事がなんで話題になるんだろう。とんでもないPSって言ってたよな。そんな事はないぞ。
ギルドを出て門に向かって歩き出すと頭の上から声がする。
「主は有名人なのです。タロウもクルミもリンネも鼻高々なのです」
従魔達はいつもそう言ってくれるんだけどさ、こっちは有名になりたくないって。
門を出ると以前と同じ様にポールが2本立っているのが見えた。その前には大勢のプレイヤーが列を作っていて、次々にそこを通っては次々と消えていっている。
俺たちもそこを通ると目の前の空間が揺れ、次の瞬間には全く別のエリアに立っていた。
「主、ここで宝箱を探してウハウハになるのです?」
「そうだな」
目の前の風景は前回の宝探しでは見なかった場所だ。今回の宝探しのエリアが前回のエリアを再利用しているのかどうかは分からないけど、見る限りここは初めてのエリアだよ。目の前は草原があり、その先は森になっていた。左右を見るとそこも森だ、振り返って背後を見ると、草原の先に山がある。よく見ると山を登っているプレイヤーの姿が見えていた。
ここからは敵がいない代わりにタロウに乗っての移動もできない。広いエリアを歩いて探すことになる。端末を見ると『帰還石』が入っていた。
「行こうか」
「ガウ」
「はいなのです。参るのです」
宝探しは草原だろうが山の上だろうが場所による箱の中の品物には差がない。プレイヤーの心理として険しい場所や森の奥にありそうだと思いがちだけど。
俺たちは頭の上に乗っているリンネが左に行こうというのでその言葉通り草原を左に歩いて森の中に入った。魔獣がいないのがわかっているので散歩だよ。タロウも尻尾を振りながら俺の歩くスピードに合わせてゆっくり歩いている。クルミは歩きながらタロウの背中に乗ったり俺の肩の上に飛び乗ったりと遊んでいるし、皆リラックスしているよ。
森に入って10分ほど歩いたところで、道の上に宝箱があるのを見つけた。
「宝箱なのです。ウハウハになるのです」
見つけると皆大喜びだよ。近づいて端末をかざすと音がして宝箱が消えた。俺の周りで従魔達が見上げてくる。
「ワクワクなのです」
「ちょっと待ってな」
端末を見ると2,000ベニーが入っていた。2,000ベニーだったよと言うと皆尻尾をブンブン振ってくる。
「お金なのです。ウハウハなのです」
「ガウガウ」
従魔達にすれば金額の多寡じゃないんだな。宝箱の中にお金が入っていた。そのことが嬉しいんだよ。
「確かにそうだ。お金は嬉しいよな。この調子で探すぞ」
「探すぞ、なのです。ガンガン見つけるのです」
30分後にまた宝箱を見つけた。中身は品質が高のポーションが5個入っていた。
「これはリンネの故郷にあるコンビニのおばさんにあげよう」
「あげようなのです。主は優しいのです」
その後も森の中をぶらぶらと歩く。前の宝探しの時も思ったけど、魔獣がいないとわかっている外をこうやってのんびりと歩くのは新鮮だよ。従魔達も全く緊張していない。クルミは時々森の中の木に登って駆け上がってからタロウの背中にジャンプしたりして遊んでいる。それを見ていたリンネも同じ様に木の上に駆け上がってそこから隣の木の枝にジャンプしているよ。
「タロウも走り回ってもいいんだぞ?」
「ガウガウ」
そう言って身体をすり寄せてきた。
どうやらこうやって俺の隣をゆっくりと歩くのが良いらしい。俺がその背中を撫でてやると歩きながら尻尾をブンブンと振ってくれる。
それにしても今自分がいるエリアの森は広い。ずっと鬱蒼とした木が生い茂っている。ただ下草がないので歩きやすい。それと木の間から光もちゃんと注いでくるので暗くもない。
「主、この森は気持ちがいいのです」
「確かにな」
歩いていると他のプレイヤーを見ることもある、大抵は1人か2人だ。女性は2人組が多い。タロウやリンネ、クルミを見てスクショを撮りたいと言ってくるがうちの従魔達はサービス満点だから何の問題もないね。俺はスクショに映らない様に少し離れる。彼女達が撮りたいのは従魔だってのは分かってるんだよ。
スクショを撮り終わった人に宝箱の話を聞いてみると、結構見つかりやすいと言う。
「箱の中身はポーション、印章、あとベニーだったわよ」
そう教えてくれた。
「なるほど。こっちも似た様なもんだよ」
「リンネちゃん。ありがとうね」
「はいなのです。お安いご用なのです」
仲間のプレイヤーがいなくなるとまた従魔と一緒に森の中を適当に歩く。今回は新しく来た人の為なのか比較的宝箱が見つかりやすい。20分に1個くらいは宝箱を見つけているぞ。今回の宝箱の中身は印章が2個だった。
それでも従魔達は大喜びしてる。
「これでまた強い敵に挑戦できるのです」
「その通りだよな。この調子で集めるぞ」
「ガウ」
「集めるぞ、なのです」
タロウの上でクルミもしっかりジャンプしてくれた。
結局初日は2時間ほどいて宝箱を7つ見つけた。中身はベニーが入っていた箱が2つ、ポーションは3つ、印章が2つだった。帰還石を使って始まりの街の郊外に跳んだ俺たちはそこから転移の腕輪で自宅に戻ってきた。
そこからログアウトまで従魔達の焼き物を作ってこの日はログアウトした。バザールは明日だからね。少しでも作っておきたい。
よく日曜日は午前中宝探しをして数千ベニーを手に入れた俺たちは午後からはバザール会場に出向いた。キャンペーン期間中だから皆外や宝探しをしていてバザールは空いているかなと思ったら、結構な数のプレイヤーが俺のテントの前に集まってくれた。
聞いたらキャンペーンで皆外にいるから逆に空いていると思って狙ってきたそうだ。ところが皆同じ事を考えていたということだよな。
「リストを見たら窯業エリアにタクの名前があったので飛んできたの」
「そうそう、私も。置き物が買えてよかったわ」
こんな調子で集まってきたみたいだよ。テーブルの上の焼き物が次々と売れていく。
「毎度あり」
「あり、なのです」
売れると尻尾を振りながらお礼を言うリンネ。
前回よりは多めに作ったこともありこの日は閉店時間ギリギリまで商品があった。最後の最後で全部売れたけどその時にはもう誰も並んでいなかったのでとりあえず一安心だ。ただいつもの4人によれば、まだまだ人気があるということなので引き続き焼き物を作らないとな。金策にもなるし。




