勝てるのは主だけなのです
打ち合わせが終わって彼らが自宅から出ていくと、俺は畑の見回りをし、収穫と種まきをした。収穫した野菜と果物とお茶を農業ギルドに買い取って貰うと、ランとリーファに留守番を頼んで岩盤の街に飛んだ。今日あたり、レベルが上がりそうな気がするんだよな。NMを倒した経験値も入っているだろうし。
その予想通り岩盤の街の北側でレベル120とか121のスノウオークを相手にしているとレベルが118に上がった。俺はもちろん、従魔達も大喜びしてくれたよ。
「また強くなったのです」
「そうだな、この調子で頑張ろう」
「ガウ」
「はいなのです」
東と西の端まで移動して今度はそこから北にあがろうとは思っているんだけど、それには120くらいまでレベルを上げた方が良いだろう。しばらくは街の北側での経験値稼ぎになりそうだよ。
この日の夕刻、自宅に戻ってクールダウンしているとクラリアとトミーの2人がやってきた。この日の活動が終わってこの街にあるクランオフィスで解散になったあと俺が自宅にいるので顔を出すことにしたそうだ。
従魔達はいつもの2人なのでリラックスしている、最初の挨拶だけするとあとは思い思いの場所で腰を下ろして休んでいた。いつもは膝に乗るリンネも今日はクルミと一緒に精霊の木の枝で体を横にしている。
「雪原のNMがいたのよ」
お茶を一口飲んだクラリアが言った。情報クランと攻略クランで森のセーフゾーンから北西に進んでいくと俺が言ったエリアにいたらしい。
「リポップが1ヶ月とかじゃなくて安心したわ。確認してないけど24時間でリポップかもね」
「ただな、いたのはいたんだがな、負けたんだよ。時間切れだ」
トミーが言った。2パーティで行ってみるとそこにいたので挑戦してみようという話しになったらしい。10名、2パーティで臨むことにしたそうだ。
「NMのレベルは140になったの。私たちが120だから20レベル上。戦闘時間は45分」
「きつそうだな」
俺が言うと20レベル上のNM戦はきついなんてもんじゃないと言うトミー。皆薬品ガブ飲みで対応したがそれでもずっと押されっぱなしだったらしい。
「なんとか狂騒状態になって吹雪を吹いてきたところまでは頑張ったんだけどな、1度口から吹雪を吹いたと思ったら、突然その場で消えたんだ。AIに聞いたら45分の制限時間を過ぎたという話しだ」
45分近く戦闘をしてやっと狂騒状態になったということか。
「正直簡単じゃないわね。むしろ少人数の方がチャンスがあるかもしれない。今度はお互いに1パーティで挑戦しようとスタンリーらと言っているの」
レベル120の1パーティで挑戦した時のNMのレベルをチェックするのとその時の強さを比較する予定だそうだ。
「タクの場合は12段階強化済みのバンダナと加護。それに敵対心が低い従魔の攻撃とクルミの魔法。従魔達は皆スカーフで強化済み。それで戦闘時間が20分台だろう?普通のパーティならまず無理だ」
トミーはそう言ったあとで、ひょっとしたらこのエリアにある次の街で更に3段階強化をしたプレイヤー前提でのNM戦になっているかもしれないと言った。クラリアもその可能性が高いと言っている。なるほどね。
全部で6段階強化できたら2つか3つレベルが上がる。それに加えてバンダナやジョブ帽子などの特殊効果がある装備を身につけてギリギリ倒せるのかもしれない。もちろんその時のプレイヤーとNMとのレベル差については分からないんだけど。
「明日以降で再戦したらもう少し詳しい状況が分かると思うの」
「いずれにしても、今のプレイヤーの中であのNMを倒せるのはタクと従魔達だけだぞ」
「そうなのか」
2人がそう言っている。でも確かにそう言われるとそうなんだよな。12段階強化済みのバンダナをたまたま持っているから勝負になっているのは間違いない。それに3体の従魔達の能力も半端ない。
彼らは今度はパーティ単位で挑戦すると言っている。それで勝てなかったとしたら今の時点で勝負になるのは俺たちだけになるのかな。そう言うと2人がその通りだと言った。
トミーが続けた。
「タクが勝った時は神官の杖が出たんだろ?刀も出るんじゃないか?」
「確かに。毎回神官の杖じゃなくて武器枠だとしたら刀が出る可能性もあるよね」
「挑戦してみたら?今なら挑戦し放題じゃない」
それもありだな。他の装備が出たら情報クランや攻略クランに渡せばいいか。彼らも強くなれば勝てる確率があがるだろうし。
「私たちがパーティ単位で勝負して負けたら、その時に相談させて」
俺が言うとクラリアがそう言った。
「了解です」
いずれにしてもまずは2つのクランが挑戦する。その結果待ちになった。
俺は慌てて次の街を探す前にレベルをもう少し上げないといけない。
彼らと別れてからは毎日午後に雪原のエリアに飛んでスノウオークを相手に経験値稼ぎをしていると3日後にレベルが上がって119になった。
俺も従魔も大きな変化はないけど、それでもレベルが上がる分強くなるので皆大喜びだよ。
「レベル120まで頑張るぞ」
「分かったのです。やってやるのです」
「ガウ」
俺たちが119になった次の日、いつもの4人が自宅にやってきた。
「負けたよ。完敗だった」
縁側に座るなりスタンリーが言った。情報クランのパーティも同じだったそうだ。雪原にいるフィールドNMのことを言っている。
「レベル120で挑戦したけどNMのレベルは135だったの」
「つまりNMの最低レベルが135ってことね」
マリアとクラリアが言っている。話を聞くと狂騒状態にすらならずに時間切れになったそうだ。15レベル差。装備系を入れても12か13ほどレベルの差があると勝負にならないらしい。あとリポップ時間は20時間だそうだ。中途半端だなと思ったら。ログインする人が夜だけ、昼だけの人がいるので24時間にするとNMに会えないから調整しているんじゃないかという見方だ。
「俺もバンダナを強化するかな。でないと勝負にならないよ」
冗談か本気かスタンリーがそう言っているよ。
「勝負になるのは主だけなのです。主が一番強いのです」
「ガウガウ」
そばにいたリンネとタロウが言ったり吠えたりしている。クルミはタロウの上でそうだと言わんばかりにジャンプしていた。
「そうなのよね。タクしかあのNMを倒せないのよ」
マリアが言うと当然なのですと尻尾を振りながらリンネが言った。こっちには12段階強化済みのバンダナという反則級の装備があるからな。
「クラリアとトミーから聞いたが、武器狙いで挑戦するんだって?」
「そう。神官の杖が出ただろう?武器枠なら刀が出るかも知れない。狙ってみようかなと思ってさ」
俺が言うとその可能性は十分にあるよなという4人。
「それでだ。俺たち4人で相談したんだが、タクがスノウオークのNM戦で狙っているのは刀だろう?」
「その通り」
「それ以外にドロップした装備品を売ってくれないか?」
彼らは相談した結果、強い装備があるのならそれを手に入れることで自分たちが強くなれるのならそうしようということになったそうだ、
「こっちが欲しいのは武器とスカーフだよ」
「もちろん。こっちは全然構わないよ。スカーフはもう持っているし」
スカーフを強化することでレベルの底上げができるしね。
情報クランはフィールドNMの情報を公開したそうだ。ただNMのレベルと強さがプレイヤー側のレベル、人数で変化すること。自分たちが120の時にNMのレベルが135で勝てなかった事なども同時に公表し、このNMはレベルを上げて装備を6段階強化した後で挑戦するNMの可能性が高いということも同時に公開している。
プレイヤー側はNMのレベルが135だということ、PWLのトップクランである情報クラン、攻略クランの両クランがなすすべなく負けているという事から挑戦するのを躊躇っているそうだ。
「2組ほど挑戦したみたいだが、どちらも開始から10分も持たずに全滅したそうだ」
「全滅か」
「公式の掲示板でそれが書かれて、実際挑戦したプレイヤー達があれは今は絶対に無理だと言ったこともあって皆挑戦を躊躇っているの」
「分かった。じゃあ空いている間に行ってみようか」
「みようか、なのです。主、一番の実力を見せつけてやるのです」
「ガウ」
おお、従魔達の気合いが入っているぞ。




