西の探索
次の日は岩盤の街から西方面の探索だ。岩盤の街から下に飛ぶとそこでタロウに胴衣を装備し、ソリから伸びているロープを引っ掛けた。準備完了だ。
「レッツゴーなのです」
「タロウ、頼むぞ」
「ガウ」
タロウが一吠えしてから西に走り出した。雪を被っている岩に擬態しているスノウオークを振り切りながら進んでいく。1時間程走ると左手のずっと先にセーフゾーンがある森が微かに見えた。そうか、西に行くのならセーフゾーンから出た方が短かったな。森を見て思い出したよ。森からだとしばらくは敵も弱いだろうし、移動が楽かもしれない。でもあそこには転送盤はないんだよな。
俺が何も言わなくてもタロウは岩や擬態している魔獣を避けて西に向かって駆けている。しばらくすると東側と同じ様に魔獣のレベルが122に上がった。もし森の中のセーフゾーンから普通に歩いて移動したら3、4時間程の距離になる場所だ。ここからは敵を倒しながら西に進むことにする。
「タロウ、敵を倒しながら進むぞ」
「ガウ」
タロウやリンネが岩に擬態しているスノウオークを見つけてくれるのでそれらを倒して経験値を稼ぎながら西に進んでいくと、途中から雪原に岩が盛り上がっている場所がなくなった。細かい雪だけが降っている雪原になった。景色が変わったぞ。
降雪と平原に起伏があるので遠くまで見られないが、それでもこの景色は東側にはなかったぞ。セーフゾーンのある森からだと4時間ちょっとの距離の場所だ。岩と岩に擬態していたオークがいなくなった。ちょっと嫌な気がする。西の端はまだ見えない。細かい雪が降っているので視界は良くないが、それでも見える範囲で雪原がずっと西に広がっている。
俺たちはソリから降りるとソリと胴衣を端末に収納した。
「今までとは違う景色だ。ここからは慎重に行こう」
「任せるのです。敵がいたら蹴散らしてやるのです」
クルミもジャンプしている。任せておけってことだな。
隣を歩くタロウの背中にリンネとクルミが乗っている。
雪の中を20分程歩くと前方に雪を被っている岩らしきものが見えた。ただその岩らしきものの大きさは今まで見てきたのよりもずっと大きい。
近づいていくとタロウが前足を落として低い唸り声を出した。と同時にタロウの背中に乗っていたリンネが雪の上に飛び降りて言った。
「敵なのです。今までのよりもずっと強いのです」
そう言って強化魔法を掛けてくれる。クルミも魔法壁を俺に掛けてくれた。当然俺も空蝉の術を詠唱する。今までのよりもずっと強い。それでタロウが唸り声を出しているんだな。久しぶりに唸り声を聞いたよ。
(ミント、あの雪を被っているのは魔獣かい?)
(その情報は持ち合わせていません)
姿を見せないとわからないということか。近づくしかないな。隣を見るとタロウもリンネ、そしてクルミも皆本気モードだ。
「立ち上がったら最初から全力で行くぞ」
「ガウ」
「任せるのです」
10メートル近くまで近づくと岩らしきものが立ち上がった。今まで相手にしてきたスノウオークと同じ外見だがまずこっちはずっと大きい。立ち上がるとどすどすと雪の上をこちらに向かってきた。
「やるぞ!」
(ミント、魔獣だよな?)
(はい。スノウオークキング。スノウオークのNMです)
こんな場所にフィールドNMがいるのか。俺は火遁の術でタゲを取ると両手に刀を持った。俺の左前にタロウ、右にリンネとクルミが立つ。何も言わなくてもリンネが火の精霊魔法を撃ち、タロウが横からオークキングに蹴りを入れる。オークキングは俺に腕を振り下ろしてきたが、想像以上に速い動きだ、それをなんとか躱すと刀を横に振った。戦闘しながらAIのミントに聞いてみる。空蝉の術で分身を出しているので攻撃を喰らってもノーダメージで凌げる。
(敵の強さとレベルは分かるかい?)
(はい。スノウオークキングのレベルは対峙しているプレイヤーのレベルによって変化します。今のレベルは135です。また戦闘するプレイヤーの数によって体力が変化します)
(ん?どういうこと?)
ミントを話をしながらもオークキングの腕の攻撃を交わしながら刀を振る俺。クルミはしっかりとスロウの魔法を入れているし、リンネも火の精霊魔法を顔にぶつけていた。
(スノウオークキングの体力は戦闘に参加しているプレイヤーの数によって変化します)
(こっちの人数が増えるとNMの体力も増えるということ?)
(はい、その通りです)
なんとまあ、いやらしいNMだ。そして今の相手のレベルが135。俺たちの表面的なレベルは117。18も上じゃないか。ただ実際はバンダナと加護で12あるから6レベルほど上か。それに装備の強化を入れたらもう少し縮まる。簡単じゃないが全く歯がたたないという差でもなさそうだ。このレベル差もプレイヤーの数で変化するのだろう。俺たちは4枠(4人)で18レベル差だ。
今のところスノウオークキングは両手を振り回し、時にジャンプをしてくるだけでいやらしい攻撃はしてこない。とは言っても3回に1回は蝉が剥がされる。両手をブンブンと振り回してくるのでうまく身体を使って避けないといけないが、足元が雪ということでどうしても力が入ってしまうんだよ。ジャンプもでかい身体の割りに大きなジャンプだ。雪の上で避けるのが大変だよ。
タロウの強い蹴りとリンネの底なしの魔力を使った精霊魔法、そしてクルミのスロウと魔法壁。俺たちは少しずつNMの体力を削っていった。いつも言うけど序盤はこれをやり続けるしかない。
何分か経過した時、突然NMが口を開けてそこから吹雪の様に雪と風を俺に向かって吹きかけてきた。逃げられない。あっという間に蝉が2枚剥がされる。すぐに再詠唱。
「狂騒状態だ。こっちも遠慮しないぞ」
「ガウ」
「ばっちこい、なのです」
吹雪は連続して吹いてこない。ただいつ来るかわからないのでNMの顔を見ながら刀をを振る俺。
NMがまた口を開いた。それを見てすぐに右の雪の上に横っ飛びする。NMは吹雪を吐きながら顔を俺の方に向けた。蝉が1枚剥がされた。1枚なら問題ないぞ。
タロウが雪の上をジャンプすると背中側からNMの首の後ろに噛み付いた。顔を上に上げて噛み付いているタロウを振り落とそうとする。無防備になった喉に俺の刀とリンネの精霊魔法で攻撃する。タロウは首の後ろに噛み付いたまま離れない。
「タロウ、頼むぞ。リンネ、ぶっ倒すぞ」
「はいなのです。懲らしめてやるのです。喰らうのです!」
噛みついている間は口から吹雪を吹かない。激しく首を左右に振っているがタロウも離さない。
NMの喉、俺の刀と魔法でダメージを与えた場所にリンネの火の精霊魔法。それを何度も繰り返しているとNMのスノウオークキングが動きを止め、そのままどすんと雪の上に倒れた。
(NMのスノウオークキングを倒しました。戦闘時間は20分46秒です)
(時間制限があったの?)
(はい。タクの場合は30分制限になっていました)
そうだったのか。時間制限の事は全く頭に頭になかったよ。
「俺たちはNMを倒したぞ!」
「やったー、なのです。主が強い敵を倒したのです」
タロウもNMから離れるとガウガウと言いながら寄ってきた。その前にクルミが俺の肩の上に乗ってそこで何度もジャンプする。最後にリンネが俺の背中を駆け上がって頭の上に乗った。
「皆が頑張ったから倒せたぞ」
「主に倒せない敵はいないのです」
「ガウ」
見ていると雪の上に倒れたスノウオークキングの姿が消え、その場所に大きな宝箱が現れた。それを見て大喜びする従魔達。
「宝箱なのです。ウハウハなのです」
宝箱に近づいて端末を差し出すと音がして、同時に宝箱が消えた。
「主、何が入っていたのです?」
待ちきれないと言った様子で聞いてくるリンネ。タロウとクルミもうるうるとした目で見てくる。
「ちょっと待て」
周囲を見ると他に敵はいない。ここはこのNMのスノウオークキングが徘徊するエリアになっているから他の敵がいないのか、それともたまたまなのか。いずれにしても安全であることを確認した俺は端末をチェックした。
中には神魂石が4個(赤、茶、紫、青)、500,000ベニー。
そして神官専用の杖、オールジョブで使えるスカーフ、雪の加護というのが入っていた。スカーフは濃紺の落ち着いた色をしている。50万ベニーはでかいな。島のダンジョンボスを倒した時と同じ金額だ。雪の加護は取り出せない。
(ミント、スカーフは強化できるの?)
(はい。装備や武器と同じく強化できます)
岩盤の街で強化したら強くなるぞ。首装備は他の部位と重ならないしな。そして雪の加護だ。これも譲渡不可、転売不可になっている。加護というくらいだからステアップかもしれない。ドロップ品の中では杖は俺は使えない。武器のランダムドロップ枠が1枠あるのかな。
「よし、わかったぞ」
「ワクワクなのです」
俺は従魔達に宝箱の中身を言った。それを聞いて大喜びする3体の従魔達。
「これで主がまた強くなったのです」
「うん、そうなるといいな」
俺たちはこのまま西に進むことにする。タロウの背中に乗って西に進むと再び岩に擬態しているスノウオークのエリアになった。敵のレベルは123だ。
戦闘してみると加護のおかげなのか今までよりも楽に倒せた気がする。1体じゃ分からないので、2、3体倒してみた。やっぱり加護の効果はあるな。でもランドトータスの加護ほどじゃない感じだよ。レベルで言ったら1程度かな。でもそれでも助かるよ。
西に進んで123のスノウオークを倒していると山が見えてきた。こちらも南北に山が連なっている。そこからタロウに乗って山裾をチェックしながら南に移動し、東西の山がぶつかっているところまで移動して何もないのを確認してから転移の腕輪を使って岩盤の街に戻った。




