知ってるよ
とうとう、、、
アキは思う。
とうとう俺の頭はどうかしてしまったのか?
誰もいない部屋で聞こえる不思議な声。
そんなものが聞こえるようになってしまったら
人間おしまいだなとアキは思う。
「おい、お兄ちゃんと連呼している奴!」
アキはとうとう幻聴に向ってしゃべり始める。
もうやけくその様子。
「俺はお前のお兄ちゃんなのか?
でも俺には兄弟がいる覚えはないぞ、、、
人違いじゃないのか?
それよりさあ、
俺今日は散々なんだよ。
変なことばっかりあって、、、
極めつけはこれだよ、、、」
アキはシャツの中をのぞいて
胸をのぞく。
その立派な二つの物体は
まだアキの胸にちゃんと存在している。
「いい胸してるなあ、、、俺って
はははは、、、」
世を儚んだ様子のアキは
力なく笑う。
「、、、えっち!」
するとまたアキの耳に
聞こえる不思議な声。
またアキは周りを見渡すが
誰もいない。
「おい!どこにいるんだ?
姿を現せ!」
アキはなおも問いかける。
「お前は誰なんだ?
おまえはもしかしたら
俺がこうなってしまったことを知っているのか?
教えてくれ!
これは誰かの呪いなのか?
それとも陰謀なのか?
なぜ俺が女になって
俺の部屋がからっぽになってしまわなきゃならないんだ?
頼む!知っていることがあったら教えてくれ」
アキはすがるような気持ちで
その声に向かって問いかける。
しかし答える様子はなく
静かなままの部屋。
アキはため息をついて
何もない部屋に座り込む。
落ち着こうとして
煙草に火をつけるアキ。
「知ってるよ」
突然背後から聞こえる声。
その声は先ほどのぼんやりした声
ではなくアキの耳元ではっきりと聞こえてくる。
勢いよく振り向くアキ。
そこには一人の女の子が立っていた。
その女の子は静かに微笑むと
アキにこういった。
「知ってるよ。お兄ちゃん」
アキと女の子は向き合ったまま
しばらく見つめあっていた。