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第6話 蛇の娘

 俺たちは狩人として暮らしているが年がら年中山の中で暮らしているわけじゃない。特に冬の寒さは厳しく、おやじはともかく俺は耐えられない。

 だから冬の間はどこかの町や村に滞在することになる。

 そういう時のために町や村に獲物を届けたりする。何しろこのあたりではまだ貨幣が存在せず、物々交換が主な交易手段だ。

 ノヴァローマや十の氏族の都市部では貨幣が用いられているらしいので、この辺りはまだ田舎だ。だからこそ、恩を売っていざというときのために滞在できる場所を確保しておかなくてはいけない。


 森を開いて作られた簡素な村を見回す。

 風がそよぎ、優しく背の低い草をなでる。蛇の下半身をもつラミアや、赤ん坊くらいの大きさの小人ピュグマイオイがせわしなさそうに働いている。

 ちなみに十の氏族の村はクリフォトの周囲に作られることが多い。

 クリフォトから産まれるので当然とも言えた。

「クラヴァス。俺はここの顔役に挨拶してくる。お前は適当にしておけ」

「おう」

 ちなみに適当にしておけ、というのは遊んでおけとか、スマホでも見とけ、とかそんな意味ではない。

 薪割りなどの村の雑事を手伝っておけという意味だ。当然ながらまだ文明が発達していないこの世界では子供でも遊んでばかりいる余裕はない。

 怠けていると冗談抜きで昼飯を抜かれる。あれはひもじい。前世でも今世でも初めてだったけどほんっとーにしんどい。

 さてそれじゃあ何か仕事でも探すかと歩き出そうとして。

「ク、ラ、ヴァース! ひ、っさ、し、ぶりー! おっきくなったねー!」

 高く澄んだ声がして、背後から急に抱きつかれた。

 思わずバランスを崩しそうになる。ついでに背中に柔らかい感触が当たる。

「ユリア? いきなり抱きつくのやめてくれよ」

「えー? 可愛いんだもん。抱きつきたくなっちゃうよ」

 と言いつつユリアはこちらの頭を撫でてくる。さらに器用なことに、下半身をこちらの足に巻き付けている。

 ユリアは下半身が蛇の十の氏族の一つ、ラミアである。

 見た目だけなら美人の女子高生にも見えるけど、その明るいオレンジの髪と、縦に鋭い蛇の瞳孔、二又に分かれた舌がいやおうにも魔性を感じさせる。

「んー! 本当に人間って不思議! ちょっと会わないだけですごくおっきくなっちゃうね!」

「そこに驚くのが俺にとっては一番不思議だけどな……」

 なお、十の氏族には子供が存在しない。生まれた時から成人に近い姿で生まれ、一般常識や読み書きなども備えている。だからこのユリアも実は俺より年下だったりする。

 だからこそ赤子というものをほとんど見たことがないらしい。ちなみにラミアの上半身は人間のものだが、たいていのラミアは露出が多く、非常に煽情的だ。はっきり言って目のやり場に困る。

 しかもこれでまだ一歳児だというのだからいろいろアウトだ。手を出したらお巡りさん待ったなし。

 ……肉体年齢八歳児に手を出そうとするユリアに問題がある気がしなくもないけど、まあラミアはこの世界だとそういう種族だからしょうがない。

 なお、ギリシャ神話のラミアはゼウスに惚れられた挙句ヘラに祟られて怪物に変身させられたお姫様だったはずだ。

 とりあえず冷静さを保ちつつ尋ねる。

「で、俺に何か用なの?」

「用が無きゃ来ちゃダメ?」

 ぎゅっと抱き着く力が強くなる。

「い……いや、ダメ」

 思わず誘惑に流されそうになった自分の頬をつねって正気を保つ。

 ユリアはちぇー、と言いながら離れた。

「でもほんとに久しぶり! 会いたかったよ! クラヴァス!」

「うん、久しぶり。何か変わったことはあった?」

「ない……あ、ううん、一個だけ。多分クラヴァスとゼノンさんにも関係がありそうなこと。最近ノヴァローマの町のどこかが慌ただしいっておばあちゃんが言ってたよ」

 クリフォトから産まれてくる十の氏族と人間では家族の意味合いがかなり違う。

 同じクリフォトから産まれた氏族を兄弟姉妹と呼び、年が離れていれば父母、あるいは祖父祖母と呼ぶ。

 血縁関係ではなく出身地と年の差を表す言葉のようになっているのかもしれない。

 で、そのおばあちゃんというのがここの顔役で俺もおやじも頭の上がらない相手だった。


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