第49話 選挙が近ければ
補給拠点からバーリに戻ったルキウスは不機嫌というほかない表情だった。
今にも噴火しそうな激情を必死に宥めているようだった。
食糧庫の被害を最小限に抑えた功績をたたえる褒賞を渡すと言われて戻ったのはいいものの、そこでアンドニウスから出た言葉はねぎらいどころか敵を倒せなかったことに対する不満と嫌味だった。
それだけならまだよかったのかもしれないが、話がグエナウスのことに及ぶとルキウスは我慢の限界を超えそうだった。ニザルスが上手くとりなして退席しなければどうなっていたかわからない。
ニザルス自身もこれ見よがしに美しく縁取りされた貴族用のトガを見せつけるような態度でいやみったらしいアンドニウスには辟易していたが、年若いルキウスがいたおかげでかえって平静を保てていた。
「ご気分は落ち着きましたか」
「ああ。ニザルス。助かった」
ふう、と大きく息をついた。やりきれない感情を吐き出したようだった。
「アンドニウスめ……家格だけが取り柄の男が……大方グエナウス様が活躍した戦場で武功を挙げられなかったせいで逆恨みでもしているのか。同じくらいの年だから妬ましかったのだろうな」
「しかしせっかく武功をたてたのにタラント攻めに参加できなくなっちまいましたね。それどころかルコーラの奴が副官みたいな位置に収まっちまったようですし」
「いや、おそらくこの戦いは……やめておこう。未来のことをむやみに口にするべきではないとも聞くしな」
何か言い淀んだ年下の上官に対してちょっと怪訝な表情だったが、日に焼けた左官工のような男に話しかけられた。
「失礼ですがそこの兵士さん」
「ん、どうした?」
「町のうわさでもちきりのアンドニウス様とはどのようなお方でしょうか」
これはまずいな、とニザルスは焦った。おおかたこの左官工は噂好きで平民だがそれなりに裕福そうな兵士に見えるルキウスならいろいろ詳しいと踏んだのだろう。が、そのルキウスが顔をしかめていることは振り返らなくてもニザルスには想像できた。彼がアンドニウスの名前を口に出すことすら嫌がっているのは明らかだ。
「おお。それなら俺が答えるよ! ルキウス殿。先に戻っておいてくれますか」
「ああ。ありがとう」
副官の気遣いに礼を言い、そのままルキウスは立ち去り、ニザルスも伝えられる程度の話を左官工に話した。
その左官工が偽装の魔法で化けたリュカオンだとは気づかぬまま。
翌日。
眠れぬ夜を過ごした俺はひとまずノエミの自宅に向かった。
そこにはすでにカーチェの頭を会かけたシバとノエミがいた。
「あ、クラヴァスさん。敵がなんで侵攻してきたか全部分かったっすよ」
「早えなおい! 全部ってどこまでだよ!?」
「全部は全部っす。目的。敵の能力、狙い、こちらがどうするべきか。全部一言で説明できるっす」
「一言ぉ!? そ、それってなんだよ!?」
あまりにもあっさり、とても簡潔に、この戦争の吐き気がするほど醜悪な真実を告げた。
「選挙が近いからっす」




