第47話 神の証明
ノエミから聞いた話は俺も知っている。問題なのはその後。
「先代クラヴァスは大規模な戦いの前、ノヴァローマを糾弾したらしいっす」
「その糾弾の中でテュポーンについて語ってなかったか?」
「語ってたはずっす。たしか、ノヴァローマを許さない。俺の爪はテュポーンのようにお前たちを切り裂くだろう、みたいな感じっす。その戦いのさなか先代クラヴァスはテュポーンの魔法を初めて使ったらしいっす」
ちなみにこの家には本がない。
ハンニバルの知恵は誰かに盗まれることを恐れているからか、百年近くすべて口伝で継承されている。
その口伝が俺の仮説を裏付けた。
「なあノエミ。神様っていると思うか?」
「は? 唐突になんすか? ……まあでも、いないとおかしいっすよね」
ノヴァローマの魔法はローマの神々の魔法だ。それが使えるから神はいる。そういう結論になる。だがおそらく違う。
「いや、いないんだよ。少なくともノヴァローマの神はいない」
俺の言葉にノエミは困惑していた。
「おかしくないっすか、それ? クラヴァスさんはいないものを倒そうとしてるんすか?」
「ああ、そうだ。人間にはできるんだよ。いないもの、存在しないものを殺せる」
そうして俺は今までユリアにしか話していない計画と仮説を説明した。
これがすべて上手くいけばノヴァローマに対抗する……どころか滅ぼすことさえできるかもしれない。
「……」
ノエミはしばらく沈黙していた。だが、納得したのだろう。
右の掌を左胸に当てた。敬礼の仕草だった。
「わかりました。あなたを主と仰ぎ、あなたに仕えます。この世界から人類が消え去るその時まで」
多分、ノエミはユリアから俺の目的について聞いていたのだろう。消え去るとは地球に帰還させるか……滅ぼすか。そのどちらかだ。
「そこまでかしこまらなくていい。面倒だろ、そういうの」
そういうとノエミはいつもの調子に戻った。
「そっすね。じゃ、準備するんで外で待っててくださいっす」
「おう。それじゃあな」
軽く手を挙げてから、クラヴァスは立ち去った。しん、と部屋の中が静まる。風すらもそよがない部屋でノエミは一人になった。
ほんの数か月前のことを思いだす。掃除したり、食事を持ってきてくれたユリアを幻視する。その幻に手を伸ばして、当然ながら何も掴めなかった。
やがてノエミは震え始めた。
「ゆ、ユリアねえちゃん……ごめんなさい……あたしがもっと、もっと勇気出して……クラヴァスさんについて行ってれば……ねえちゃんは死ななかったかもしれないのに……ごめ、ごめんなさい……」
しばしの間、ノエミはなるべく声を出さず、涙を流したのだった。




