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第46話 爪痕

 もしも地球からノヴァローマに転生した人間がいればひとまずノヴァローマ側につくだろう。当たり前だけど同じ姿をしているというのは絶対的な共通項が重要なのは俺が一番よくわかっている。

 でも、彼だけは、ハンニバルだけは別だ。

 彼はかつてローマを倒すと誓い、そしてローマ史上最大の敵と恐れられたのだから。

 ……まさか転生してまで新たなローマと戦っているとは想像もできなかったけれど。


「その名前を出してきたってことはあたしが出した宿題はできたんすね?」

 俺がユリアと一緒にノエミを訪れた際に協力する条件としてあることを言われた。その答えを出すまで十年くらいかけるつもりでいたけれど、もう時間がない。

「ああ。ノヴァローマに対抗する方法は思いついた。ノエミの宿題は終わらせてきた」

「じゃあ聞きましょうか。あなたはどうやってノヴァローマに対抗するつもりっすか?」

 ノエミの質問に対して大きく息を吸ってから答えた。


「はじめ俺は地球のローマが滅んだ理由から逆算してノヴァローマを弱体化させたりこちらを強化しようと思った。でもそれは無理だ」

「どうしてっすか?」

「ノヴァローマとローマじゃ事情が違う。ノヴァローマの方が小さくて未完成だ」

「……それは弱いってことじゃないんすか?」

 ノエミはおそらく俺の言葉の真意をわかったうえで質問している。

「国力そのものはな。でもローマが滅んだ理由の一つは国土がでかすぎたことだ。そして長く続きすぎたこと。政治の腐敗。経済の衰退。外部からの侵攻。それらの問題が表面化するまで短くて七百年。長く見れば千年以上かかった」

「そこまではさすがに待てないっすね」

「そうだ。それだけあれば氏族は絶滅する。そしてノヴァローマと他の都市の関係も強固だ」

 例えば地球のナポリやバーリはローマと同盟関係を結んでいたが、力関係が定まっていない時期も長かった。

 しかしこの世界ではノヴァローマからすべての人間の都市が派生している。

 いわば喧嘩することの多い隣人から、親子のような関係になっている。青は藍より出でて藍より青しとでも言うべきか、ノヴァローマはローマよりも未完成であるがゆえに強固だ。

「ハンニバルが地球で企んだような同盟都市の離反はまずおこらない。仮に俺たちと人間の間に交渉の余地があったとしても」

「……」

 説明するまでもない話だが、ハンニバル・バルカはローマに勝てなかった。地球でも、この世界でも。

「そして最後の要因。人間の魔法。これがあまりにも戦争に向きすぎている」

 地球にはない要素、魔法。ハンニバルが苦戦した最大の理由がこれだ。氏族も魔法が使えるがその最大の脅威かつ相違点に対応しきれなかった。むしろ多少でも対応できたハンニバルがすごすぎる。

「だからこそ、人間の魔法を撃ち破らないといけない。それはつまりノヴァローマの神を倒すってこと。そのために俺の前の印落ち……先代クラヴァスについて聞きたいことがある」

「なんすか?」

「先代クラヴァスが魔法を使えることになった戦争についてだ。どのくらい知ってる?」

「……? 歴史の編纂と収集もあたしらの役目だからいいっすけど……先代クラヴァスはノヴァローマの奴らに閉じ込められてたけど、自力で脱出して逃げ出したっす。その時穴を掘ったせいで爪が全部ぼろぼろになって、だから爪(クラヴァス)って名乗ったっす。それからエルフに拾われてノヴァローマの悪行をさらす宣伝になったっす」

 ノエミはよどみなく、何度も何度も暗唱したかのように語っていた。


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