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第45話 ラミアの姫

 うららかな木漏れ日が差し込む森を歩きながらシバに抱えられたカーチェ(首だけ)が尋ねてきた。

「あのう……結局クラヴァスさんはどこに向かうんですか?」

「ユリアの妹、ノエミのところだ」

「ユリアさんの……そうですか……ユリアさんの死を伝えに……」

「それもあるけどあいつの知恵を借りたい」

「知恵?」

「ワウ。ノエミさんはラミアの姫なのです」

「姫? お姫様なんですか? そんな人が氏族にいるんですか?」

「そういう役職、かな。先祖代々姫ってわけじゃない。ノエミは小食のラミアなんだ」

「ワン。ラミアは他の氏族の体液を必要としますがまれにそれを必要としないラミアが産まれます。そういうラミアたちは特別な知識を受け継ぐ役目を持つのです」

 ユリアがラミアの間でそこそこ有名なのは姫の世話係を任されたことがあるかららしい。

「特別な知識? それはいったい……?」

「雷鳴の将軍、トニートロの軍事知識」

「ト、トニートロ……て、昔の英雄ですよね……どうしてその知識をラミアが……?」

「彼は印落ちじゃないから氏族と満足に会話できなかったんだ」

 ノヴァローマの人間は法律を破れば神に裁かれる。それゆえ彼が直接軍を率いず、氏族に自らを拷問させ、緊急避難のような形で軍事的アドバイスを行っていたらしい。それでもノヴァローマを追い込んだのだから彼の軍事的才覚は推して知るべし、だ。

「トニートロがノヴァローマに敗れた後、一度ノヴァローマに捕らえられたらしい。そこから何とか逃げ出したけれど、彼の体はボロボロだった。自分の知識を後世に伝える必要があったトニートロはノヴァローマの神々の裁きを受けながらも氏族に知識を伝えた。その最期を看取ったのがラミア。それがラミアの姫の始まりらしい。まあ、百年くらいしか経ってないけどな」

「それは……すごいですね。でも……どうしてトニートロさんはそこまでしてノヴァローマを目の敵にしていたんでしょうか」

 そう。

 彼が一番難儀したのはその疑問への回答だ。印落ちならともかくまっとうな人間が氏族に味方するはずがなく、信頼を得るのにかなり時間がかかったらしい。

 だが俺はその理由をすでに知っている。

 それからおおよそ二日かけてとある村にたどり着いた。

 タラントに避難する準備は進められているようだが、まだここにとどまるつもりのようだった。もしもノヴァローマがタラントに攻め入るつもりならここも危うい。それでも避難しないのは。

(俺を待っていたからか?)

 この状況なら自分の知識が必要になるはずで、移動すれば居場所がわからなくなるかもしれないから。

(あいつならそれくらい予想できてもおかしくないか)

 それは正しかったのか、門番を勤めているラミアに話しかけられるとすぐに案内された。


 目の前には古めかしいが手入れの行き届いている大きな家。

 こんな田舎では何よりの贅沢と言える代物だ。

「おひとりでお入りください」

 ラミアから忠告され、カーチェとシバは外で待っていてもらう。

 扉を開ける。すぐに声をかけられた。

「遅かったっすね」

 声の方向にいたのは赤いぼさぼさの長髪をそのまま流しており、だぼだぼの服を着ただらしないラミアの少女だった。床にとぐろをまいて座っている。

 ラミアはだいたい豊満な体形をしているのだが、小食のラミアは例外的に子供のような背格好でほとんど成長しないらしい。

「ユリアねえちゃんは一緒じゃないんすか?」

 乾いた声で一番応えづらいことを聞いてきた。

「死んだ」

 我ながら少し声が震えていたかもしれない。

 その一瞬だけノエミの体は完全に停止した。が、すぐに元通りになった。

「なるほど。それで焦ってあたしに助けを求めに来たってわけっすか」

「そうだ。お前の知識が必要だ。雷鳴の将軍トニートロ、いや……ハンニバル・バルカの知識を俺にくれ」


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