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第4話 新たなるローマ

 異世界転生。

 そんな冗談のようなことが自分の身におこった。それ自体も驚きではあった。が、少し成長した後でおやじからいきなり。

『なあ、お前って転生者だったりするのか?』

 と聞かれた時は心臓が飛び出るかと思った。

 話を聞くとこの世界では転生者、転移者あるいは転生物というのはそれなりにあるものらしい。

 それなら命を救ってもらった恩もあるし、正直に答えることにした。それからちょくちょく地球の話もしている。

「まあな。十の氏族がギリシャ神話かローマ神話に出てくる魔物みたいなのばっかりなのに……クリフォトはカバラだろ……こう、口の中がイーってなる」

 せっかく十の氏族はちゃんとローマ神話で統一されているのに、生まれてくるところが別の神話のものだと互い違いの靴下をはいているような気分になる。

 おやじはぐるるるう? と、迷っているような唸り方をしていた。

「ようするに違う種類の昔話に出てくるもんだって言いてえんだよな?」

「そういうこと。そういえば氏族には神話ってないのかよ」

「しんわ……そういうのはねえな」

「じゃあ一種の無神論者ってことか」

「地球じゃ神様ってのがいるのかよ?」

「いや、いないよ。おやじはどう思うんだ?」

「いねえんじゃねえか? 少なくとも俺は見たことねえよ。ノヴァローマの連中にはオリュンポスの神ってのがいたはずだな」

 ノヴァローマ。

 直訳すると新たなローマ。

「ノヴァローマってのはこの世界に転生したローマ人が作った国なんだよな?」

「ああ。だいたい四百年くらい前に転生した集団がローマって国の奴らで住む国をノヴァローマにしたんだと」

 新しい街を作るとき、入植者が故郷や統治者の名前をもじるのは珍しくない。

 一番有名なのはアメリカのニューヨークだろう。ヨーク公が占領したからそう呼ばれることになった。

 東京だって東の都で東京なんだから本当に誰でも同じようなことは思いつくのかもしれない。

 でもそれは問題じゃない。問題なのは。人間と十の氏族が敵対する立場にあるということ。

「ノヴァローマっていう国が強くなりすぎたんだよな」

「ああ。あいつらは俺たちのクリフォトを占拠して自分たちの神殿に更新する。そうやって勢力を増やしてきた」

 そう語るおやじは淡々としていて感情が読み取れない。

 おやじがノヴァローマ、ひいては人間をどう思っているのかはあまり語りたがらない。人間ではあるが、人間に捨てられた俺をおもんばかってのことなのはなんとなくわかる。

 俺を憐れんで拾ったのか、それとも何らかの方法でノヴァローマに復讐するための道具として育てたのか。

 そのあたりを直接口にしない。

(どうするべきなんだろうな)

 間違いなくおやじには恩があるし、おやじ以外に知り合った十の氏族の多くはいいやつだった。

 それ

でもどこか壁みたいなものはある気がする。ただそれでも、人間社会に戻れるかと言われると無理らしい。もちろん地球への帰還は手段すらないらしいし、そもそも助けられた恩は返したい。前世では親不孝だったから、なおさらそう思う。

 しかしそれもできる気はしない。

 ちらりと自分の胸に目を落とし、自分の胸に刻まれたいびつな紋様を思い出す。

「お前は印落ちだからな。それがある限りノヴァローマにも、その同盟都市にも行けねえ」

 この世界の人間には必ず胸に印と呼ばれる狼の紋様が刻まれている。

 ただまれに狼の紋様が刻まれない人間がいるらしい。そういう人を印落ちと呼ばれるのだそうだ。

 おそらくそれは俺が捨てられた原因だろう。

 右胸に手を当てると心臓の鼓動を感じる。

(やっぱりこの世界での内臓逆位なんだな。もしかしてこれが印落ちの原因?)

 物思いにふけっているとおやじは耳と鼻をぴくりと動かし、すっくと立ちあがった。腰の鉈にすでに手をやっている。

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