第3話 十の氏族
おやじは山鳩を生でかぶりつき、俺は焚火で焼いた鳥と山菜を口にして、食事を終えてから授業は始まった。
血まみれの口元をぐっと拭ってから唐突に質問してくる。
「じゃ、十の氏族について説明してみろ」
授業と言ってもこんな風にいきなり質問したり、いろいろなことについて語ったりするだけだ。この世界で一般的に使われている文字……ぶっちゃけラテン語のことなんだけど……は一応教わったけれど、ノートに書いて記録するということをしない。この世界では紙が高いからもったいないのかと思っていたが真相は違う。
『聞いて覚えりゃ書かなくていいだろ?』
とのことだ。
気軽に言ってくれるなあ。
「おやじたちみたいにもともとこの土地にいた人たちだよな。巨人のギガンテス、小人のピュグマイオイ、馬の足を持つケンタウロス、魚のひれをもつセイレーン、鱗が揃ったラミア、一つ目のキュクロプス、羽の生えたハルピュイア、牛の角を持つミノタウロス、木と寄り添うドリアード、そして影に潜むリュカオン」
「そうだ。俺らは昔から……つってもどれくらい昔なのかはわかんねえが、暮らしてきた。他にもエルフのように氏族じゃないけど暮らしてきた奴や、デュラハンのようにどこかから召喚された奴もいるな。じゃあ、氏族と他の生き物の一番の違いはなんだ?」
「クリフォトから産まれてくるってことだよな」
おやじはグルル、と軽く唸った。上機嫌な時にこんな唸り方をよくする。
「そうだ。俺たちは腹から産まれるわけでも卵から産まれるわけでもない。クリフォトから産まれてくる」
この世界に来て一番驚いたことは十の氏族という生物の生態についてかもしれない。
クリフォトと呼ばれる樹から産まれる。
クリフォトの見た目はちょっと大きいだけの樹木だ。しかしそのうろから氏族が生まれてくる。実際にその場面を見たこともある。木のうろから染み出るようにラミアが現れる姿はちょっとぎょっとした。
(少なくとも進化論ならありえない生き物だからなあ。本当に何者かに作られた命だったりするのかな)
「お前が見てきたのは小さいクリフォトばっかりだったからな。中には山みたいにばかでかいクリフォトもあるらしい。俺たちにとっちゃクリフォトは命の源だ。どうも氏族じゃない連中にはその辺の感覚がよくわかんねえみたいだな」
「そりゃ生まれ方が違うからなあ」
氏族たちは常にクリフォトを重んじている。自分たちが生まれてきた場所だからとかそんな感じじゃない。自分の命とクリフォトのどちらを選ぶかと言われればほとんどの氏族はクリフォトを選ぶ気がする。
こう、本能的に守ることを宿命づけられているというか……なんにせよ人間にはちょっと理解しづらい感覚かもしれない。
……ただ、どうしても納得できないことが一つ。
「でもやっぱりクリフォトって名前は納得いかねえなあ」
「前もそんなこと言ってたな。そいつはやっぱり転生者の知識なのか?」




