第29話 タラントへ
さて、現在俺たちがいる場所はイタリア南部。
現在の地名だとプーリア州、その中央部だ。わからない人のために注釈するとイタリア半島のヒールの付け根部分の場所だ。
結局のところ俺は八年前から大きく動いているわけじゃない。
いろいろと実験しつつ地固めしていた感じだ。
ある意味今日はその集大成。
この地方……便宜上プーリア地方と呼ぶけど、ここの十の氏族最大の都市、タラントの首長に会うことになっている。
俺たちがいるのがタラントから二十キロくらいの位置なので頑張れば一日で行ける。かなりしんどいけどおやじに鍛えられた俺ならいけなくもない。
……自動車や電車が恋しい。
いやまあでも前世の俺じゃあ一日にニ十キロどころか十キロも歩け……山道なら無理だけど舗装されてる道なら行けたかなあ。ノヴァローマ側はこの時代ですら舗装道路がばっちり整備されているらしい。
う、羨ましくなんかないんだからね! ……やめよ、きもい。
俺は荷物をロバに持たせて自分は歩き。他に荷物持ち要員としてシバ、アザーレ。
他のリュカオンたちはどうも怪しい動きを見せているバーリに偵察に行ってもらっている。
ちなみにバーリもタラントも古代ローマから俺の時代まで残っている地名だ。イタリアの都市には二千年単位で名前が残っているものが珍しくない。
欧州の中でもかなり歴史のある国なのだ。とはいってもノヴァローマはまだできて四百年。そう大した歴史は……あるか。まあ俺はその歴史をぶっ壊さなきゃいけないわけなんだが。
「ヤッホー。クラヴァス。お出かけだね」
ひょっこりと現れたのはユリアだった。
「見送りに来てくれたのか?」
「まあね。私もここ離れるし」
「そうなのか?」
「うん。ここから北東の村に呼ばれてるの。新しい子が産まれたからいろいろ教えてほしいんだって」
「そっか。ノヴァローマに近いところだから気をつけろよ。バーリの動きがちょっと慌ただしいみたいだし」
ちなみに十の氏族は何かを教える際に他所の誰かを招くということに抵抗がない。特にラミアはいろいろな意味で社交的と言える。
というのも、ラミアには氏族の体液を吸収しなければ体調が悪化するので日常的に他の氏族と交流しなければならない。
ちなみに体液なら何でもいい。何でも、だ。……おまけに見目麗しい女性ばかりともなればそういう職業に就くのも珍しくない。
ユリアはそうでもないらしいけど。……ちょっとほっとしてる自分がいるのには気づいていた。
「ね。一つ聞いていい?」
「ん? 何?」
「クラヴァスはさ。えっと、神話? 宗教? そういうのも教えてるよね」
「まあね」
「あれはさ……やっぱりなにか狙いがあるんだよね。あれだけは明らかに何かに役に立つことじゃないじゃない。ノヴァローマに対抗する何か? それとも……地球に帰還するための何か?」
ちなみにユリアにはいろいろなことを話してある。……正直ちょっと口が軽すぎると思わなくもないけれど……ユリアには人の口を開く魅力があった……そう言い訳しておく。
「……そうだな。ユリアには教えておいてもいいかもな。これが多分、ユリアの妹への回答にもなるだろうし……」
そうして俺は自ら設定を練った宗教を教えている理由を説明した。ちょっと難色を示しつつも納得したようだった。
「そっか……そういう……これは他の人に知られちゃだめだね」
「うん。話したのはユリアだけ。だから誰にも言っちゃだめだ」
「んー……それなら私にもあの本くれない?」
「え……ま、いっか。一冊くらいなら」
荷物から本を取り出してユリアに手渡す。ユリアはそれを大事そうに受け取った。
「えへへ。二人だけの秘密だね」
いたずらっぽくウィンクしてくるユリアにちょっとくらりとしてしまうのだった。




