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第25話 蜂と薔薇

 さて。

 イタリアにおける農作物はかなり多様であるが、この近辺のイタリア南部は地中海性気候の影響で乾燥に強い作物が重宝される。

 そのためわりと原種にちかい人参、トマトなどがこのあたりではよく栽培されている。

 今回は春まきの人参の畑を耕している。

「ほら! シバ! もっとてきぱき! ダックス! 無駄に穴掘るな!」

 監督者責任として指示を飛ばす。

 ぶつくさと文句を言いながらもリュカオンたちはせっせと働いている。

 ふと隣の畑に目をやると白い桜のような花びらを持つ樹が生えそろっていた。

「最初はあれ、桜の樹だと思ったよな」

「サクラ? 何それ?」

 隣に立つユリアから質問される。当然ながらこの世界には桜が存在しない。少なくとも俺の知る限り。

「バラ科……アーモンドと似たような花をつける日本の樹だよ」

「へー! 美味しい実をつけるの?」

「いや、どっちかって言うと観賞用かな。でもまあ、アーモンドと一緒で春の到来を感じるってのは一緒かな」

 ちなみにアーモンドは古代ローマから栽培されていたとされており、地中海性気候ともマッチしていてこの世界でもよく見る樹木の一つだ。

 そんなことを話しているぎゅむっと土を力強く踏みしめる足音が聞こえた。

 振り返ると、壁があった。いや、そうとしか思えないほどの巨漢がそこにいた。

 茶色い毛色に天を衝くような角が生えた二足歩行の牛。

 ミノタウロスのアザーレだ。

 説明するまでもないだろうがミノタウロスは牛の体を持った種族で二メートルを超す巨体も珍しくない大柄な十の氏族の一つだ。

 その中でもアザーレはすさまじい巨体であり、おそらく二メートル三十センチを超えているだろう。その巨体はチュニックの上から見てもわかるほど筋骨隆々としているのだからまさしく怪物のようだ。

 が、しかし実際の彼は。

「なんだか悪いだなあ。おらの畑をリュカオンたちに手伝ってもらうだなんて……」

 頭を掻き、おどおどしている彼はむしろひ弱そうだった。

「いいんだよ。あいつらには反省してもらわなくちゃな」

「そんならいいんだけどなあ……あ、そうだ。アーモンドの収穫はかなり良くなったから他でも養蜂を試したいって人がたくさんいるみたいなんだな」

「お。そうか。そりゃいい報告だ」

「養蜂? 蜂とアーモンドに何か関係があるの?」

 これはユリアの疑問だった。蜂と植物には極めて密接なかかわりがある。

「蜂はポリネーターなんだよ」

 二人ともこてんと首をかしげて?マークを浮かべた。こんな仕草でもちょっとかわいいと思ったのは内緒。

「要するにきちんと実をつけるには蜂がいるってこと」

 蜂は花粉を運んで植物に受粉させる能力が非常に高い。もちろん古代ローマでそこまでの知見があった人はいないだろう。

「んー? あ、そっか。だからアザーレ君の畑のアーモンドが急に実をつけなくなったんだね」

「そ。アザーレが蜂を必死になって追っ払ってたから」

 以前アザーレは蜂を見ると箒やクワを持って鬼のような形相で追い払っていたのだ。そのせいで蜂が寄り付かなくなりアーモンドの実がならなかった。

「だ、だっておらは蜂に刺された時にとっても痛かったから……ひいいい、今でも思い出すと痛みがあるんだな……」

 とまあ、このようにアザーレはその体に見合わない小心者だった。

「それでも俺のアドバイスで養蜂を始めるあたりお前なかなか根性あるよ」

 ちなみにこの世界ではまだ本格的な養蜂は行われておらず、ミツバチの巣を見つけて蜂蜜を取るという方式が主流らしい。

 そのため俺が教えた可動式巣箱……要するに巣を作ってもらってそれを取り外しできる構造の現代的な巣箱を教えたところかなり好評だったらしい。


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