第20話 戦の女神
「グ、グエナウス様を庇え!」
レッダの声に部下たちが従い。各々の剣と魔法で応戦するが、いかんせん数が違いすぎる。
そしてその横を密かに、まさしく蛇のようにクラヴァスはすり抜けた。
クラヴァスが使ったリュカオンの魔法は至極単純。自分自身を蛇に偽装した。
ゼノンが使うよりもはるかに精度が低かったが、これだけ蛇がいれば偽装の効果は跳ね上がる。
(おやじから教わったことは何も無駄じゃねえ。冬眠明けの蛇は凶暴だ。そんでこの蛇はかなり強力な毒蛇! 一度でも咬みつかれれば俺の勝ちだ!)
慎重に歩を進め、日の光差す外に向かう、その直前。
さっと右足に痛みが走った。
振り返るとグエナウスが軍神マルスのようにたけだけしい目でクラヴァスを射すくめていた。
(なんで!? 俺じゃあリュカオンの魔法を使いこなせなかった!?)
否。
他とは違いこちらに向かってこない蛇に向かって攻撃するべきだと判断したグエナウスの直感の勝利である。
しかも一度攻撃の手ごたえがあったことでリュカオンの魔法による偽装が解けてしまった。
グエナウスの視線を避けるように外に向かって一直線に駆け抜ける。
「くそ! 傷は……浅い。なら、逃げるが勝ち!」
ずきずきと右足が痛むがここで休んでいる暇はない。
予定通りルクレチアの村まで走る。もってくれよ、俺の体!
ちらりと後ろを振り返ると予想通り洞窟からゆらりと姿を現すグエナウスがいた。
(こ、怖ええええ!?)
そこからはわき目も振らず逃げ出す。
背後からざりざりと靴が砂を掻く音が聞こえる。
しかしそれが一瞬止まる。
嫌な予感がした俺はぱっと横に飛んだ。ごんと鈍い音が地面に衝突する。人類にとって最も原始的な武器、投石だ。
(でもこんなことをしてくるってことはもう手持ちの武器がないはず。逃げ切れる!)
再び逃走開始。追ってきているのは一人だけ。他は多分蛇に足止めされている。
何度か投石が襲ってくるがどんどん精度が下がっている。蛇に咬まれたせいで集中力が下がっているのかもしれない。
「アイギス」
しかし後ろから魔法の名が聞こえた。
(盾の魔法だよな? こんなところで何を……!?)
俺は思わず目を疑った。
俺の周りには白い盾……いや、もはや城壁のような防御魔法に囲まれていたからだ。とても飛び越えられそうにない。ぽかりと開いた道は背後に続いているがその先には当然グエナウスがいた。
彼は焦らず、じっくりと距離を詰めてくる。
「……アイギスってこんな使い方もできるんだな」
「いや、私も驚いている。おそらくはミネルヴァ様も同意見なのだろう。だから私に力を貸してくださっている」
グエナウスは鞘から剣を抜き、右腕一本で構えをとる。
(左手と右足が少し腫れている。蛇に咬まれたに違いない。時間さえ稼げればこの人は死ぬ……でも)
もう追いつかれてしまった。
今から背中を見せるのは危険すぎる。
「君を討つべきだ。例え、命に代えても。そう神々もおっしゃっている! パラス!」




