第18話 逃走
グエナウスが事態に気づいたのはいくつかの偶然が重なった結果だった。
わずかな時間仮眠をとってからクラヴァスを監禁している洞窟に行くと見張っていた部下が先ほどグエナウスが様子を見に来たと言ったのだ。グエナウスにそんな記憶はない。
すぐに中を確認するともぬけの殻だった。
マテラに戻る時間はないと判断し、レッダを含めた五人でクラヴァスとクラヴァスを逃した何者かを追跡すると決めた。
ロリカハマタと呼ばれるチェインメイルと兜を装備したが盾はもたなかった。装備の重厚さよりも速度が寛容だった。
ミネルヴァの御力を借り、ノークタを発動させて偵察する。そして……幸運にも誰かに背負われるクラヴァスを発見した。
「見つけた。行くぞ!」
グエナウスは意気込んで歩を進める。敵もノークタに気づいたのか木々の奥深い場所を選んで進んでいるようだがみすみす逃すつもりはない。
「なんとしても彼が真の意味での印落ち……テュポーンになる前に殺さなければならない」
テュポーン。
ギリシャ神話、あるいはローマ神話最強の怪物。それを彼らがこうも恐れる理由は……。
ノークタの操作に集中しつつ部下たちに護衛を任せる。
だがぞわりと肌が泡立つ。この感覚には覚えがあった。
「ミアズマ! グエナウス様! 蛮族が近くにいます! 可能な限り我々が対処します!」
レッダの言葉が言い終えるより先にどこかから飛んできた投石が部下の一人の頭を打った。幸い重傷ではなさそうだった。
「グエナウス様! 私が追います!」
「いや! その必要はない! 奴の狙いは足止めだ! 無視して進め!」
その言葉は正しい。
ここで時間をかけていればクラヴァスは逃げ延びただろう。
そしてクラヴァスを追わせないためにゼノンは無謀な賭けに出ざるを得なかった。
木々の間をすり抜けるように走り、グエナウスたちの背後から襲い掛かる。だが悲しいかな、人間はミアズマを探知できるがゆえに奇襲は成功しづらい。部下の一人が白刃をきらめかせる。
ゼノンはそれを腕で受け止める。
その刃は骨まで到達したがひるまない。反撃として鉈を顔めがけて振るい、その顎を叩き切る。返す刀で別の相手に鉈を振るおうとして。
がしりと、顔の半分がひしゃげた相手が鉈を掴んでいることに気づいた。ひゅーひゅーと奇妙な音が喉からこぼれながらも、その目はゼノンを睨んでいた。
とっさに武器を捨てて徒手空拳でグエナウスに向かう。
刃物はなくなったがゼノンにはそれにも負けない武器である爪と牙がある。
しかしその壁はあまりにも分厚い。レッダを含め三人が武器を構えて待ち構える。もはや策はない。猛然と突進する。
腕を裂かれ、腹を突かれ、頭蓋骨が割れても突進を止めない。
ついにグエナウスの眼前まで迫る。
その大きな顎を開き。
「アイギス」
白く光る魔法の盾に阻まれた。
それを見たゼノンはにやりと笑い。
背後から迫った刃に突き刺され絶命した。




