第12話 嵐の前に
シュケルに招待された俺は一件のそまつな小屋に招かれた。
「小さい家ですまないね」
「いえ……とんでもありません」
心の中を読まれた気がして思わずドキリとする。
「ただいま」
シュケルはなんどもそうしたようにドアを開ける。
「おかえりー、お父さ……え、誰?」
ててて、と近寄ってきた俺よりちょっと幼い女の子が俺をみてきょとんとする。
「こちらは……ええと、ごめんまだ名前を聞いてなかったね。君は?」
「クラ……クラウスです」
クラヴァスという名前は十の氏族にとっては英雄のはずだけどノヴァローマにとっては逆のはず。偽名を名乗っておいた方がいいはずだ。
「へー。初めまして、クラウス! あたし、スート!」
女の子が挨拶すると奥の方から女性が現れた。
「はじめまして。妻のミーニィです」
「クラウスです。はじめまして」
一通り挨拶を済ませてからシュケルが事情を説明した……もちろん俺がでっち上げた設定だけど。
「クラウスは最近できた町の猟師の子供らしい。親とはぐれたんで今日だけ泊まっていってもらっていいかな?」
「あたしはいいよー」
「ええ。構いませんよ」
「あ、でも、本当にいいんですか?」
「構わないさ。暮らしは楽じゃないが一日くらいならね」
確かにこの家はとても裕福には見えない。心苦しくなって懐から干し肉を取り出した。
「あの、これ……少しでも足しになれば」
「あら。ありがとう」
ミーニィが働き者の手で干し肉を受け取る。三人とも俺を歓迎しているようだった。
それからは本当にのどかな時間が過ぎていった。
スートは同年代の子供が珍しいのかしょっちゅう俺に話しかけてきて、ミーニィさんが作ってくれた食事は予想通り質素だったが温かみがあった。彼女は炉の女神ウェスタの信徒で火を灯す魔法を使っていた。
シュケルは口数こそ多くなかったがこちらを気遣っている様子だった。
(まあでもこれも俺が印落ちだって知らないからなんだろうな)
捨てられた時の記憶は鮮明じゃないけれど、しこりのように残っている。ちらりとシュケルの胸を覗くとそこには確かにオオカミの紋章があった。
俺の胸にある不格好な模様とは大違いだ。
(すぐに離れなきゃいけないのはわかってるけど……今日だけなら……まあ、いいよな)
そうしてきこりの一家に招かれ、眠りについた。
明日は激動の一日になるとは想像もせずに。




