3.神を唆す
私は空咳をして話題を変えた。
「ところで、私をここへ呼びつけた理由はなんですか?」
「そりゃあ、もちろん…僕を神として崇め奉ってほしいからだよ。」
「なんか嫌です。」
「なぜ? なんで?」
「神様っていうのは…なんていうかこう、神々しくて思わず平伏してしまうような存在なんですよ。あなた神々しさの欠片もない。」
男は立ち上がり狭い部屋を彷徨き始めた。
「僕が…? この全て知っているこの僕が…?」
独り言がデカいタイプらしい。
「えっと…じゃあ、言い換えよう。僕はここに居ると生命の危機を感じる。人道的救済を求める。」
だからなんか嫌なんだってば。
この感覚は理屈じゃないけど、私は私の直感を信じることにしている。
「…ここの支配者たる高知能?とやらに命を狙われていると?」
「いやどうだろう…そっちはわからない。むしろお上は僕を長く生かそうとしている気がする。」
「じゃあ殺し屋に命でも狙われてんですか?」
「いやそうじゃない。そうじゃなくて…」
男は床にしゃがみ込んでしまった。男が小柄なのも相まってまるで子供を虐めているような気分になった。
「だいたいそんなおかしな銀色タイツ着て全身コンピューターに支配されてる様な人、ここ以外の場所で生きていけるはずないでしょう?」
「神ならば可能では?」
「神ならばね」
男は立ち上がって椅子へと戻ってきた。表情がわからないので何を考えてるのかはわからない。
「…僕はね、古い世代の生き残りなんだ。もう十二万時間も生きてる。今日日こんなに長生きなのは僕ぐらいだよ。」
「あ、すみません。十二万を二十四と三百六十五で割ってもらえます?」
「13.6986301369863…割り切れないよ。」
「あ、大丈夫です。十三歳ですね。未来の人って長生きなのかと思ってました。」
「そういう時代もあったみたいだね。でもまぁ…リソースは有限だから。」
「さらっと怖いこと言いますね。ちなみに私は二百年以上生きてます。」
「それって何時間ぐらい?」
「さあ? 計算するのも馬鹿らしいぐらい長い長い時間ですよ。ところでそんな早く死んでたらどうやって子孫を残すんです?」
「うん? どういうこと?」
「えーとつまり……生産工場でもあるんですか?」
「そう、だね。人類はお上が優秀な種を掛け合わせて作ってるよ。もちろん多様性は失わずいかに世界の発展に寄与できるかに重点を置いている。野放図な生殖よりよっぽど理性的で知性的だと思うけど。」
「へー……私の知ってる世界は暴力的に世界を発展させてたので…」
いや確かに暴力的な発展の影で沢山の被害者が生まれていた。ならばこの未来の在り方は正しいのかもしれない。…ホントに?
話そうとして口を開けたら咳き込んでしまった。この世界は生身の生き物に優しくない。
「大丈夫? 咳してる人なんて久しぶりに見たよ。」
「誰も風邪とかひかないんですか?」
「ひかない。病気になる前に治療される。…でも助からないと判断されたら、それきりらしい。僕は死んだことないからわからないけど。」
「この世界で死んだらどうなるんです?」
「さぁ? 元々いつの間にかここに居ただけだからね。…たぶん死体を片づけた後、また新しい人類がこの場所を使うんじゃないかな。でも家ってそういうものだよね?」
「そう…ですね。」
家はそういうものかもしれないけど、人の死としては…いや、人間の生死もそういうものだったっけ?
なんだか頭がぼぅっとしてきた。軽い脱水かもしれない。あと何を聞けばいいんだっけ?
「あの、水は… なにか私が口に出来そうな物はありませんか?」
「水? 持ってないの?」
「生憎手ぶらです。」
「食料か…外に行けばご馳走できるけど、君、行けないんだよね?」
「…行き方がとんと検討つきません。」
「その服僕よりも旧式っぽいから、僕がさっき使ったやり方も無理っぽいし…普段はどうしてるの?」
「普段は新鮮な飲み水が常にそばにあるんですよ。」
あぁ駄目だ。頭痛までしてきた。この場所は良くない。
「辛そうだね。横になる?」
私は黙って首を振った。
「私は…いえ、私は…その服を、ュ謖∬」?スョを」
「ん? 雑音が混じってよく聞こえないや。」
「いえ。あの、私があなたを連れて行くにはその服を脱ぐ必要があります。」
「これを? …でもこれは皮膚みたいなものだから、脱ごうったって脱げないと思うけど。生まれた時から着てるし。」
「でもそれを着たまま違う世界へは行けません。」
「そう言われても…」
「あなたはお上の管理下から抜け出す必要があります。」
「それはまぁ、そうなのかとしれないけどさ。」
「あなたはあなたの顔を知っていますか?」
「顔? 外では原則遺伝子情報に基づいた外見だと思うけど、嫌ならいくらても変えられるから誰もそんな事気にしてないと思うよ?」
「あなたには名前がありますか?」
「識別番号ならあるけど。伜逡ェ鯖キ38999°縺ェだよ。」
「それは神に相応しい外見や名前ではありません。」
「そんなこといわれても…」
「この世界からの脱却。それこそがあなたに課された新しい使命です。」




