第3.5章22話 攻撃の練習
「ほら。」
ミアが武器屋の庭の木から勝手にもいだリンゴを、コーイチに差し出した。
「さっき音は鳴らせたんだからさ。今度はこれに当ててみてよ。」
コーイチは少し困った顔をする。
「すいません、勝手に」
武器屋の店主は手を振る。
「それはそれでいいよ。ちゃんと当たるかどうかが問題なんだから。」
店主は腕を組み、面白そうに様子を見ている。
コーイチはリンゴを地面に置いた。
少し距離を取る。
ムチを軽く持ち替え、深く息を吸った。
さっき鳴らしたときの感覚を思い出す。
大きく振りかぶる。
――パシッ。
鈍い音。
ムチはリンゴの手前で地面を叩いた。
土が跳ねる。
「惜しい。」
ミアが笑う。
コーイチは首をかしげた。
「今のは……少し早かったかも。」
もう一度。
さっきより振り幅を小さくする。
肩の力を抜く。
腕だけで振ろうとして、途中で手首の動きに変える。
――スカッ。
今度は空を切った。
リンゴは微動だにしない。
「難しいね。」
ミアが言う。
「うん。」
コーイチも素直に頷いた。
三度目。
大きく振らない。
さっきより短い動き。
頭上で円を描く回数も減らす。
タイミングを合わせる。
前へ。
――パーン!!
鋭い音。
リンゴが転がった。
表面が裂け、ひびが入っている。
完全に砕けてはいないが、確かに当たった。
「おぉ。」
店主が低く声を上げた。
「当たったじゃん!」
ミアが駆け寄り、リンゴを拾い上げる。
「見てよ、ちゃんと割れてる。」
コーイチはムチを見つめる。
「……たまたまかな。」
「三回目で当てるのは上出来だ。」
店主が言った。
「最初は大抵、自分の足を叩くもんだ。」
「そうなんですか?」
「そうだ。兄ちゃん、才能あるかもな。」
コーイチは少し照れくさそうに笑った。
「まだ、よく分からないですけど。」
ミアはニヤリとする。
「ほらね。私の言った通りじゃん。」
「いや、まだ全然だよ。」
ムチを軽く振る。
さっきより動きが小さい。
音は鳴らないが、振りやすくなった気がした。
店主はそれを見て、小さく鼻を鳴らす。
「まあ、焦るな。武器は慣れだ。使い続けりゃ身体が覚える。」
「はい。」
コーイチは素直に頷いた。
「ありがとうございました。」
「にいちゃん、また来いよ。」
店主が言う。
「変わり者は嫌いじゃねぇ。」
ミアが笑いながら言った。
「また来るかもね。次はもっと上手くなってるよ。」
「……そうかな。」
コーイチはムチを腰に巻き直した。
「まだポーション買いにいくよ?」
ミアが言う。
「ありがとうございました」
コーイチは店主に頭を下げた。
二人は武器屋を後にした。
背後で店主の声が聞こえる。
「怪我すんなよ、兄ちゃん!」
コーイチは振り返らずに手を軽く上げた。
ムチの感触が、まだ腕に残っている。
さっきより、少しだけ軽く感じた。




