3.5章20話ムチの使い方
コーイチはムチを手に取り、そのまま支払いを済ませた。
「アンタ、それ使い方わかるのか?」
店主が眉を上げて聞いた。
コーイチは少し考えてから答える。
「YouTubeで……ムチを鳴らす動画を見たことがあります。」
「見たことあるの?」
ミアが興味深そうに顔を近づける。
「でも触るのは初めてです。もしよかったら教えてもらえませんか?」
店主はニヤリと笑った。
「よし。外に出な。」
店内では狭すぎるらしい。
外に出ると、コーイチは買ったばかりのムチを店主に手渡した。
どうやら店でもこれ一本しか扱っていなかったようだ。
ミアが「見たことない」と言っていたのも無理はない。
――売れないのだろう。
そもそもムチは、基本的に相手を倒す武器ではない。
「えっ?じゃあ、やられちゃうじゃん。」
ミアが目を丸くした。
店主がさらに笑みを深める。
「お嬢ちゃん。その剣でワシを攻撃してみな。」
「えっ?」
「本気で切りかかってみな。」
その声に冗談はなかった。
ミアは迷ったが、やがて剣を抜いた。
次の瞬間。
パーン!!
空気を引き裂くような破裂音。
ミアの体がびくりと止まる。
何かが起きている。
だが――見えない。
パーン!!
今度は足元に土煙が上がった。
つま先の、ほんの数センチ前。
パーン!!
小石が弾け飛ぶ。
まるで見えない何かが地面を撃ち抜いているようだった。
ミアのカンが足を止める。
近づいてはいけない。
理由はわからない。
けれど、本能がそう叫んでいた。
しかし、このままでは埒が明かない。
――ならば。
懐に飛び込む。
決意した瞬間。
「はい、ストップ。」
店主の声。
ミアは動きを止めた。
「……何で?」
店主はムチを肩に担ぎながら言った。
「理由は二つある。」
「一つ。この武器はな、手加減が難しい。お客さんを怪我させるわけにはいかん。」
「……。」
「二つ目。」
店主はニヤリと笑う。
「この武器は、懐に入られると――めっぽう弱い。」
そして豪快に笑った。
「はっはっはっ!」
ミアは剣を下ろしながら、まだ理解できていない顔をしていた。
コーイチだけが、少しだけ目を細めていた。
――なるほど。
これは、“当てる武器”じゃない。
距離を支配する武器だ。




