3.5章16話売れるかな?
ミアは思い切り飛び退いた。
「なっ、なっ、なっ、何言ってるのー!」
「いや、たぶん大丈夫ですけど。念のため」
コーイチは手のひらから落ちていく白い粉をじっと見つめた。
さらさらと石の上に積もるそれは、さっきミアが出した黒っぽい土とは明らかに違う。
「僕の予想が合ってたら……これは土というより、石に近いかもしれない。」
「石?」
「粉になってる石です。」
ミアは眉をひそめた。
「余計わかんない。」
コーイチは少し考えながら説明する。
「えっと……僕のいたところでは、物って小さな粒の集まりなんです。見えないくらい小さい単位があって、それの組み合わせで性質が変わる。」
「……また難しいこと言い出した。」
「つまり、同じ土魔法でも、出来上がるものが違う可能性があるってことです。」
ミアは石の上に積もった白い粉をじっと見た。
「これ、畑に使えるの?」
「むしろ、畑用かもしれない。」
「え?」
コーイチは指先でほんの少しだけ触れて、粉の感触を確かめた。
ざらり、と細かい。
湿り気はない。
匂いもほとんどない。
「土が悪いって言ってましたよね。」
「うん。」
「植物って、土が酸っぱくなりすぎると育ちにくくなるんです。」
「土が……酸っぱい?」
「味の話じゃないです。」
思わず苦笑する。
「性質の話です。たぶん、これはそれを中和するもの……炭酸カルシウムに近い。」
「たんさん……?」
「まあ、土を元気にする粉、みたいな。」
ミアの目が少し輝いた。
「それ、すごくない?」
「まだ予想ですけどね。」
そう言いながらも、コーイチの頭の中では仮説がいくつも走っていた。
――ミアの詠唱。
――同じ言葉。
――違う結果。
偶然とは思えない。
「……詠唱が材料の指定じゃなくて、結果のイメージだったら。」
小さく呟く。
「え?」
「いえ、なんでも。」
ミアはしばらく白い粉を見ていたが、やがてぽつりと言った。
「でもさ。」
「はい?」
「なんでそんな危ないって言ったの?」
コーイチは少しだけ困った顔をした。
「粉は目に入ると危ないんです。細かい石の粉だと、傷つくこともあるので。」
でも、炭酸カリウムのような強アルカリなら失明もありうるからな。
コーイチは気をつけるべきだなとおもった。
「……びっくりさせないでよ!」
「ごめんなさい。」
素直に頭を下げる。
「でも、なんで土じゃないの?」
「詠唱を真似したから、同じ“畑に効くもの”が出たんだと思います」
「え? じゃあ、私の土もこれなの?」
「たぶん、混ざってます。ミアのは灰色だった。つまり不純物が多い」
「不純物……?」
「土っぽく見えてただけで、実体は粉の混合物かもしれない」
ミアは頬を膨らませたまま、ため息をついた。
「ほんと、変な魔法ばっかり。」
「僕もそう思います。」
二人で顔を見合わせて、少し笑った。
石の上には、白い粉が小さな山になっている。
ミアが作った土。
コーイチが作った粉。
同じ土魔法のはずなのに、まるで違う。
「……ねえ。」
ミアがぽつりと呟く。
「これ、売れるかな。」
「……どうでしょう。」
でも。
もし本当に土壌を良くするものなら。
農家が欲しがるかもしれない。
コーイチの頭の中で、また新しい可能性が動き始めていた。




