3.5章14話 ギルドという金庫
3.5章14話 ギルドという金庫
ギルドの受付を出たところで、コーイチは今日の報酬を確認しようと財布を取り出した。
ずしり、と重い。
革袋はパンパンに膨れていた。
「……今日は多いですね」
思わず頬が緩む。
その瞬間だった。
「バカッ!」
横から伸びた手が、強引に財布を押し戻した。
「そんなもの、こんなところで出しちゃダメ!」
ミアが慌てた様子で周囲を見回す。
コーイチもつられて視線を動かしたが、特に怪しい人物がいるようには見えない。
「え? どうしてです?」
「どうしても何もないでしょ!」
ミアは小声で言った。
「ギルド出た途端、追い剥ぎにあうことあるんだよ」
「……え」
「依頼終わりって、みんなお金持ってるから」
さらりと言われた内容に、コーイチは言葉を失った。
確かに理屈は分かる。
だが、こんな真昼間から。
「昼でも?」
「昼だからだよ。油断してる人多いから」
ミアは半ば呆れ顔だった。
「……でも、これしか財布ないし」
コーイチは困ったように言った。
「宿屋は信用してますけど、部屋に置いておくのも不安ですし……」
「だから、ギルドに預けるんだって」
「……預ける?」
「うん」
ミアは当たり前のように頷いた。
「ギルドは信用金庫みたいなもんだよ」
「お金、預かってくれるの」
コーイチは思わず振り返った。
さっき出てきたばかりの建物。
「……そんなこと、できるんですか」
「できるよ。みんなやってる」
ミアは腕を組んだ。
「冒険者が現金持ち歩くとか、自殺行為だよ」
「……なるほど」
「預けておけば、ツケで買い物できる店もあるし」
「え?」
「ギルド経由で支払いって形」
ますます銀行に近い。
「利息とかは?」
「なにそれ?」
通じなかった。
「あー……お金を預けると、増えたりとか」
「増えないよ」
即答だった。
「預かってくれるだけ」
「……それでも便利ですね」
「便利っていうか必須」
ミアは肩をすくめた。
「あとね」
少し声を落とす。
「遺言書もつけられる」
「遺言?」
「うん。もし死んだら、誰に渡すか決められる」
コーイチは思わず黙り込んだ。
冒険者らしい制度だった。
「……戻ります?」
「うん。戻ろ」
ミアは笑った。
「全額を追い剥ぎとか、笑えないからね」
コーイチは財布をしっかりと服の内側に押し込み、再びギルドの扉をくぐった。




