3.5章13話とりあえず今日もウサギ狩り
3.5章13話とりあえず今日もウサギ狩り
地味に、ウサギの処理にも慣れてきた。
そりゃそうだ。毎日十数匹も内臓を抜いていれば、嫌でも手が覚える。
最初は吐き気をこらえながらだったのに、今では手順を考えなくても体が動く。
腹を裂いて、臓器を傷つけないように指を入れる。
膜を剥がし、重みを感じながら引き抜く。
血の匂いにも、もうほとんど反応しなくなった。
慣れって怖いな、とコーイチは思う。
抜き取った内臓は、その場に置いていく。
最初は気になっていたが、翌日にはきれいさっぱり消えていることに気づいてから、あまり考えなくなった。
「肉食獣が食べてるんだと思うよ」
ミアが言う。
「肉食獣? 危なくないの?」
「大丈夫。あれは死骸を食べるだけ。あんまり襲ってこない」
「……ん?」
コーイチは手を止めた。
「じゃあ、魔物じゃないってこと?」
「そう。あれは動物」
ミアはあっさり言った。
「魔物はね、草食でも人間を見ると襲ってくるの。理由とか関係ないの。見たら攻撃って感じ」
「なるほど……」
コーイチは頷いた。
「この角兎がそうだよ」
ミアが足元に転がった角兎をつつく。
見た目はただのウサギだ。
いや、角がある時点でただではないのだが。
「近づくだけで突っ込んでくるでしょ」
「ああ……」
確かにそうだった。
逃げない。
警戒もしない。
ただ一直線に、角を突き立てようとしてくる。
「強い弱い関係ないんだね」
「うん。だから狩りやすい」
ミアは笑った。
「だって、逃げないで懐に飛び込んでくるんだもん」
それは確かにそうだ。
普通の動物なら逃げる。
だから追う必要がある。
でも角兎は違う。
自分から距離を詰めてくる。
つまり――
迎撃するだけでいい。
「……合理的だな」
「でしょ?」
ミアは誇らしげに胸を張った。
コーイチは手を洗いながら考える。
この世界では、「危険かどうか」と「魔物かどうか」は別問題だ。
人を襲うかどうか。
それが境界線。
理由は不明。
本能なのか、呪いなのか、生態なのか。
でも、分類としては非常に分かりやすい。
「じゃあさ」
コーイチは次の袋を広げながら言った。
「魔物って、全部倒していいってこと?」
「うん」
ミアは迷いなく答えた。
「だって、放っておくと人を殺すから」
シンプルな理屈だった。
善悪ではない。
危険管理。
生活のための判断。
コーイチは、少しだけ納得した。
血の匂いが風に流れていく。
遠くで鳥の鳴き声がした。
そして、次の角兎を手に取る。
今日も、ただの仕事だった。




