3.5章12話勇者の噂と生姜焼き
3.5章12話勇者の噂と生姜焼き
「えっ? 魔王っているの?」
コーイチはエルザ特製の弁当を頬張りながら、思わず聞き返した。
ミアは「またか」とでも言いたげに、あきれた顔を向ける。
「そりゃ、いるよ。魔王の討伐のために、勇者が召喚されたって話だし」
「召喚? 召喚って何? どこからか呼ばれたの?」
「さあ。そこまでは知らないけど……勇者はすごい力を持っていて、魔王を倒せるんだって」
その言葉を聞いた瞬間、コーイチの中で何かがつながった。
――スキルだ。
女神エリスに会ったのかもしれない。
そう考えると、妙に腑に落ちる。
しかし、召喚って何だ?
僕は、そんなふうにしてここに来たわけじゃない。
コーイチは、ちょうど一口大に切られた肉を、もう一つ口に運んだ。
……しかし、エルザの味付けは本当にうまい。
生姜がピリッと効いていて、噛むたびに香りが立つ。
「うまいね。エルザさんに肉、渡して正解だった」
「でしょ? 私だったら、塩かけて焼くか、煮るくらいしかしないもん」
そんな他愛もないやり取りをしながらも、コーイチの意識は勇者のことから離れなかった。
勇者って……あっちの世界から来てるのかな。
一度、会ってみたい気がする。
「こらっ。何考えてるの?」
「えっ」
「わかるんだぞ。私と話しながら、別のこと考えてるの」
そう言って、ミアはフフッと笑った。
かなわないな。
コーイチは苦笑する。
「……勇者って、会えるかな」
「さあね。近くまで来れば、この町にも寄るんじゃない?」
「この辺じゃ、一番大きい街だし」
「そうか……」
コーイチは、残った弁当を見下ろしながら、もう一度だけ勇者に思いを馳せていた。




