第3.5章 第5話(仮) 初魔法
ウサギの狩りは、驚くほど効率的だった。
ミアが前に出て、剣で間合いを詰める。
魔獣がそちらに意識を向けた瞬間、コーイチが横から入る。
役割は単純だ。
前衛と、バックアップ。
ミアが攻撃を仕掛け、ウサギがそちらに気を取られているうちに、コーイチがとどめを刺す。
それを繰り返す。
最初は慎重だった。
だが、数を重ねるうちに、動きが噛み合ってくる。
あれよあれよという間に、毛皮と肉と、魔石で荷袋がいっぱいになった。
「思ったより、いけるでしょ」
ミアが言う。
「はい」
コーイチは正直に頷いた。
その後は、解体作業だ。
ミアが手本を見せながら、さばき方を教えてくれる。
刃の入れ方、力のかけ方。
「腹を裂くときはね」
ミアは手を止めて言った。
「腹膜、傷つけないように」
「……腹膜」
「ここ。これ破ると、面倒だから」
何度か失敗しながらも、繰り返すうちに、少しずつ手が慣れていく。
コツ、というものが確かにあった。
魔石は、思っていたよりも小さかった。
小指の先ほどの大きさ。
青みがかった緑色をしている。
「色は、魔獣の種類で違うよ」
ミアが教えてくれる。
「大きさは、だいたい強さに比例」
なるほど、とコーイチは思った。
ふと、疑問が浮かぶ。
「……魔石って、何に使うんですか?」
ミアは、少し考えてから答えた。
「魔法の補助」
「補助?」
「魔力が足りないときに使うと、補填できるの」
コーイチは一瞬、間を置いてから聞いた。
「……ミア、魔法使えるんですか?」
「えっ?」
また、驚かれた。
だが、すぐに思い直したような顔になる。
「……まあ、コーイチなら、そういうこともあるか」
よく分からない独り言を呟いてから、ミアは続ける。
「普段遣いの魔法だけどね」
そう言って、短い詠唱をする。
次の瞬間、指先から水が飛び出した。
水鉄砲のような勢いだった。
「……飲めるんですか?」
「失礼ね!」
即座に怒られた。
「飲めない水を出すなんて、ありえないでしょ」
どうやら、それは侮辱にあたるらしい。
よく分からない。
「教えてもらえますか?」
そう頼むと、ミアは少し考えてから頷いた。
「詠唱、あとから真似して」
言われた通りに、繰り返す。
それほど長くはない。
すると――
体の内側から、指先に向かって、違和感が移動する。
今まで感じたことのない感覚だった。
何度か繰り返す。
すると、指先から、ぽたぽたと水が落ちた。
「おお……」
思わず声が出る。
初めての魔法は、勢いも何もない。
蛇口のハンドルが緩んだときのような感じだった。
古いパッキンが傷んで、横から漏れている水。
それでも――
確かに、魔法だった。




