第3.5章 第4話(仮) 魔獣
第3.5章 第4話(仮) 魔獣
「魔物の中でもね」
歩きながら、ミアが言った。
「獣に近いものを、魔獣って呼ぶの」
「近い、ですか」
「姿形がね」
森の中は静かだった。
鳥の声と、風で葉が擦れる音だけがある。
「じゃあ、普通の獣との違いは?」
コーイチが聞く。
ミアは、少しだけ間を置いた。
「人間に対して、捕食じゃないのに襲ってくるかどうか」
「……つまり?」
「歩いてるだけで襲ってくるのが魔獣」
「普通の動物は、人が近づくと逃げる」
「なるほど」
納得しかけた、そのときだった。
「あれはどうです?」
コーイチが指を差す。
少し離れた草むらに、小さな影が動いていた。
ウサギに似た、白っぽい獣。
丸い体。
短い脚。
――可愛い、と言ってしまいそうな姿。
だが。
「あれは、魔獣」
ミアの声は即答だった。
「草食なのに、人を襲うの」
よく見ると、その額に一本、角が生えている。
「……なんか」
コーイチは、首を傾げた。
「ゲームで見たことある気がします」
「ゲーム?」
ミアは笑わなかった。
「近づこう」
そう言って、剣に手をかける。
金属がわずかに擦れる音。
それに合わせて、コーイチも短剣を構えた。
距離が縮まる。
ウサギのような魔獣は、こちらに気づいた。
一瞬、動きが止まる。
次の瞬間。
――ダンッ。
地面を蹴る音。
小さな体とは思えない速度で、魔獣が突進してきた。
額の角をまっすぐ前に向けている。
「っ!」
ミアが前に出ようとした。
だが、魔獣はわずかに軌道を変え、
ミアの横をすり抜ける。
狙いは――
「コーイチ!」
声が飛ぶ。
距離は、もう近い。
その瞬間。
コーイチは、不思議な動きをした。
大きく振るわけでもない。
身をかわすわけでもない。
ただ、短剣を前に出し、
刃先で、軽く線を描く。
まるで、空中になぞるような動き。
次の瞬間だった。
一角のウサギは、
その刃先に――
自分から、飛び込んだ。
角が弾かれる音。
続いて、鈍い感触。
短剣は、そのまま頭部を貫いていた。
勢いを失った体が、
地面に転がる。
静寂。
ミアは、剣を構えたまま固まっていた。
「……え?」
声が、遅れて出る。
「なんで?」
角度も。
間合いも。
説明がつかない。
まるで、
吸い込まれるようだった。
コーイチは、短剣を抜き、
魔獣を見下ろした。
「……倒せましたね」
淡々と言う。
ミアは、数秒黙ってから、
ようやく息を吐いた。
「……今の」
言葉を探す。
「今の、何?」
「……?」
コーイチは、首を傾げた。
「普通に、前に出しただけですが」
ミアは、何も言えなくなった。
草食なのに、人を襲う魔獣。
それを、正面から迎えて。
――当たらない。
――避けない。
――なのに、倒れている。
説明できない違和感だけが、
胸の奥に残っていた。




