第3.5章 第3話(仮) 魔石
第3.5章 第3話(仮) 魔石
翌朝。
コーイチがギルドに着くと、ミアはすでに掲示板の前に立っていた。
腕を組み、依頼書を流し読みしている。
「早いですね」
「そっちが遅いんでしょ」
軽く言ってから、ミアは掲示板を指で叩いた。
「今日どうする?」
掲示板には、いつもの依頼が並んでいる。
清掃。
城壁の補修。
資材運び。
それから、素材採集や薬草採集。
コーイチは、自然と視線を巡らせながら口を開いた。
「依頼って、大きく分けると二種類ありますよね」
「固定報酬と歩合ね」
即答だった。
「固定は一日作業とか、作業単位で金額が決まってるやつ」
「清掃とか、城壁直しとか、冬なら雪かき」
指を一本立てる。
「基本は後払い」
次に、二本目。
「手付金と成功報酬が分かれてるのが、護衛とか」
そして、三本目。
「歩合は、素材集めとか薬草採集」
「量に応じて、報酬が出る」
説明しながら、ミアは掲示板を見直した。
「だからさ」
軽く振り返る。
「今の私たちは、歩合がいいと思う」
「同意です」
即座に答える。
歩合なら、動いた分だけ成果が返ってくる。
ペアを組み始めたばかりの今には、ちょうどいい。
そのとき、コーイチの視線が一枚の依頼書で止まった。
「……これ、なんです?」
指差す。
「魔石採集」
ミアが、一瞬だけ固まった。
「……え?」
そして、素で聞き返す。
「魔石、知らないの?」
その顔には、驚きがはっきり出ていた。
「名前は見かけますけど」
「実物は、よくわからなくて」
ミアは、ほんの一瞬考えると、ため息混じりに説明を始めた。
「魔獣を倒すとね」
「体のどこかに、魔石があるの」
「体内、ですか」
「そう」
当然の前提、という口調だった。
「毛皮とか、角とか、牙とか」
「あと肉ね」
「それとは別に、魔石」
当たり前のように続ける。
「だから、狩ったついでに取るもの」
コーイチは、ゆっくり頷いた。
「なるほど……」
言われてみれば、思い当たる。
「そういえば」
「前に一緒に仕事した人が、解体してましたね」
「でしょ」
「分け前はやるからって言われて」
「特に気にしなかったんですが……」
ミアは、少しだけ首を傾げた。
「珍しいね」
「何がですか」
「博識なのに」
あっさり言われる。
「普通の野菜とか果物は知らないし」
「魔石も知らない」
じっと見る。
「キリンシも、知らなかったよね」
「……名前は、初めて聞きました」
「へぇ」
ミアは、どこか面白そうに笑った。
「不思議な人」
悪意はない。
純粋な感想だ。
コーイチは苦笑した。
「自分でも、そう思います」
ミアは依頼書を一枚剥がし取った。
「じゃ、今日はこれ」
魔石採集。
「危険度も低めだし」
「ちょうどいいでしょ」
「お願いします」
そう答えながら、コーイチは思う。
魔石。
エネルギーであり、情報を内包する結晶。
それを取り込んだ存在が、魔物になる――
そういう仕組みが、この世界には当たり前にある。
だが、その当たり前を、
自分はまだ、ちゃんと知らない。
ミアの背中を追いながら、
コーイチはそのことを、静かに自覚していた。




