第3.5章 第2話(仮) 割り勘の話
第3.5章 第2話(仮) 割り勘の話
素材採集と薬草採集のノルマを終え、コーイチはギルドに戻ってきた。
受付で依頼完了の報告を済ませ、革袋に報酬を入れる。
いつもと変わらない作業だ。
――と、その背中を、つつかれた。
軽い感触。
振り返ると、そこにミアがいた。
「今日は休みにすると思った」
何気ない声だ。
「ミアだって、仕事に行ったじゃないですか」
そう返すと、ミアは一瞬きょとんとしたあと、笑った。
「たしかに」
互いの目を見て、自然に笑い合う。
特別なことは言っていないのに、そのやり取りが妙に楽しい。
「こっち」
ミアは顎で示し、ギルド奥のローテーブル席に向かった。
正式な打ち合わせ用というほどではない。
だが、雑談するには少し落ち着いた場所だ。
向かい合って腰を下ろした瞬間、ミアは間を置かずに口を開いた。
「報酬の割合なんだけど」
唐突だった。
「イチイチでいい?」
一瞬、思考が止まる。
あまりに即物的で、逆に拍子抜けする。
だが、金の話は大事だ。
曖昧にすると、あとで必ずこじれる。
「僕はいいんですが」
正直に答える。
「ミアは、それでいいんですか?」
今度は、ミアが「えっ?」という顔をした。
「だって」
コーイチは言葉を選ぶ。
「ミアのほうが先輩ですし」
経験も、実績も。
それを無視するのは違う気がした。
ミアは数秒、黙ってコーイチを見たあと、ふっと息を吐いた。
「……あのね」
少しだけ、声を落とす。
「私が先輩だからって、多く取る理由、ある?」
問い返されて、言葉に詰まる。
「この前の依頼」
ミアは指を折る。
「素材も薬草も仕事量も、ちゃんと等分ずつだった」
「危ないところも、偏ってなかった」
一拍置いて、続ける。
「それに」
ミアは、ほんの少しだけ笑った。
「やりやすかったよ」
その言葉に、コーイチは小さく息を吸った。
「……ありがとうございます」
「評価してるって意味ね」
念を押すように言う。
「遠慮しないで」
そう言ってから、少し考える。
「イチイチでいい」
「その代わり、責任も同じ」
コーイチは、ゆっくり頷いた。
「わかりました」
「よし」
ミアは満足そうに頷く。
「じゃ、正式にペアね」
軽い調子だが、冗談ではない。
コーイチは、その言葉を胸の中で反芻した。
ペア。
冒険者として、生活を共有する相手。
「……よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ミアは、にっと笑った。
「逃げないでよ?」
「逃げません」
「じゃ、決まり」
ミアは立ち上がり、軽く背伸びをした。
「次の依頼、明日見よう」
「今日はもう、いいでしょ」
そう言って、振り返る。
「ご飯食べた?」
「いいえ」
「私もペコペコ」
二人でギルドを出る。
肩が触れそうで、触れない距離。
昨日とは違う。
だが、確かに変わっている。
冒険でも、恋だけでもなく、
二人の生活が静かに組み合わさった。
それが、思った以上に自然だった。




